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乳癌検診における過剰診断と偽陽性

No.4732 (2015年01月03日発行) P.101

笠原善郎 (福井県済生会病院外科部長)

登録日: 2015-01-03

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

日本では2000年から乳癌に対して視・触診併用マンモグラフィ検診が行われてきました。検診の利益は「乳癌死の減少」ですが,最近は利益のみでなく,不利益も十分に考慮すべきとされます。不利益には,過剰診断,偽陽性・偽陰性,放射線被曝などが挙げられます。中でも,顕微鏡ではがんと診断されても,進行速度が遅く,死につながらないがんを検診で発見・診断する過剰診断,がんではないのに異常と判定される偽陽性が特に重要と考えます。この過剰診断と偽陽性について,わが国および世界の現状などはいかがでしょうか。福井県済生会病院・笠原善郎先生のご教示をお願いします。
【質問者】
山川 卓:やまかわ乳腺クリニック院長

【A】

がん検診の過剰診断とは,その人の寿命に影響を及ぼさないがんを発見・診断することです。乳癌以外にも前立腺癌や肺癌(すりガラス状陰影,ground glass opacity:GGO),甲状腺の分化癌など成長のゆっくりしたがんで問題となり,そのほか,良性病変の誤診,他の悪性疾患や重篤な慢性疾患に早期癌を発見した場合なども過剰診断に含まれると考えられます。乳癌検診での過剰診断の病態には,まずDCIS(ductal carcinoma in situ)が挙げられますが,高齢者では浸潤癌の一部も含まれてきます。
過剰診断の割合に関しては,RCT(randomized control trial)として行われたMalmo Study,Canadian Studyの報告があります。前者では15年間追跡で,検診群でのがん発見が多く,発見癌の10%,後者では25年間追跡で22%が過剰診断であったとされます。また,EUROSCREEN Working Groupは,16の報告を検討し,過剰診断は0~54%と幅があったものの,リードタイムバイアスを補正した論文での過剰診断は1~10%と推測しています。過剰診断の定義や測定法に一定の見解がなく,その割合を評価することは難しいのですが,10~22%が妥当と考えます。
乳癌の場合,がんと診断されれば現時点ではほぼ全例に手術を含めた治療が行われているため,過剰診断はほぼ過剰治療につながっています。今後は,前立腺癌で過剰治療にならないようactive surveillanceが行われているように,見つかってもおそらく命に影響を及ぼさない乳癌の一群を設定する試みが必要と思います。
偽陽性では,がんでない人が検診でチェックされることにより不利益が生じます。検診でチェックされると,受診者の心理的負担が増えるとともに,さらに追加の画像診断(超音波やMRI)や組織学的検査が必要になります。日本乳癌検診学会が行った調査では,各年代別に見て,偽陽性とそれに伴う追加の画像診断,組織学的検査の率は40歳代で最も頻度が高く,若年者ほど不利益を被る傾向がありましたが,米国と比較すると偽陽性率はどの年代層でも低く,組織学的検査もより侵襲性の低い検査が選択されていました。
偽陽性を減らすためには,むやみに要精検とするのではなく,「拾うべきものを拾い,落とすべきものは落とす」読影が重要です。また,偽陽性については複数人での読影の施行や,過去のマンモグラムとの比較などの努力によって減らすことが可能であり,継続した精度管理がその低減のために重要です。
これまではがん検診に関して,受診者にその効果(利益)だけが強調されて説明されてきた傾向が否めません。過剰診断や偽陽性などのがん検診の不利益に関してもわかりやすく説明し,しっかりとinformed decisionができる体制の整備が必要と考えます。

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