妊娠中期までの胎児染色体検査は,その結果が命の選別につながったり,染色体異常を持つ人への偏見・差別になるとして,長らく医療の表舞台では取り上げられることが少なかった。しかし,母体血を試料として胎児遺伝子を診断するNIPT(non-invasive prenatal genetic testing)が開発されたことを機に,非医療者とともに議論が重ねられた。こうして出生前診断施行の前提として「適切な遺伝カウンセリング」を行うことで,この検査法が2013年にわが国に導入された。NIPTは,従来の母体血を利用する検査法より診断精度は格段に向上しているが,確定診断には羊水穿刺による染色体検査が必要になる,非確定的検査法である。またNIPTは1種類の検査法の名称ではないが,現状では母体血中のcell-free DNAを解析してその由来染色体を判読し,異数性を読み取り,21トリソミーなどの染色体数の異常のみを診断する検査法である。
母体腹部から針を刺す羊水穿刺は,その後に破水や流産を起こすなど,検査に伴うリスクを持つ。そのリスクは0.3%と言われており,37歳の16週妊婦の胎児がダウン症候群(21トリソミー)である確率1/171と大きな差はない。検査によるリスクを低下させることがNIPT導入のメリットとされており,羊水検査も減少すると見込まれていた。ところが,羊水染色体検査数は増加しているのが現状である。高齢妊娠の増加と出生前診断への関心の高まりがその原因であろう。
今後,適切な遺伝カウンセリングを行える施設が増加し,NIPT施行がさらに広まることで,羊水穿刺による検査数が減少することが期待される。