インジウム(In)は,主に酸化インジウムスズ(ITO)として液晶ディスプレイの透明導電膜などとして使われるレアメタルで,1990年代から需要が急拡大し,約8割は日本が使用している。
2003年,Inによる肺線維症の死亡第1例がわが国で報告(文献1)され,肺気腫なども確認された(文献2)。労働安全衛生法はIn化合物を特定化学物質第2類物質のうち,発がん物質などを指定する特別管理物質とした。特殊健康診断は,6カ月ごとに作業条件の簡易な調査(作業条件の変化,有害物質の環境濃度に関する情報,作業時間,曝露の頻度,当該物質の発生源からの距離,呼吸用保護具の使用状況),血清In濃度検査,血清KL-6検査を実施し,二次健康診断は,HRCT,血清SP-D検査,肺機能検査,喀痰検査などを実施することになった。
日本産業衛生学会は1日8時間,1週40時間,呼吸用保護具を使用せずに身体活動の激しくない労働に従事しても,ほとんどの労働者に健康上悪影響のない平均曝露濃度を許容濃度として勧告している。しかし,動物実験の結果から安全域を考慮して数値を求めるときわめて低濃度となったため,Inの許容濃度は設定せず,作業者の血中濃度の生物学的許容値を3μg/Lと勧告した。労働行政も作業環境評価に使用する管理濃度を定めず,当面の作業環境改善の目標濃度を初めて定め,吸入性In粉じんで0.01mg/m3と告示するとともに,作業環境測定結果に応じて使用すべき呼吸用保護具を防護係数に対応して指定している。
1) Homma T, et al:J Occup Health. 2003;45(3):137-9.
2) Cummings KJ, et al:Chest. 2012;141(6):1512-21.