グレリンは,わが国で発見された成長ホルモン分泌物質である(文献1)。グレリンは主として胃内分泌細胞で産生され,摂食亢進や体重増加,消化管機能調節などのエネルギー代謝調節に重要な作用を持ち,末梢で産生される唯一の摂食促進ペプチドである。胃から分泌されるグレリンの空腹と成長ホルモン分泌に関する情報は,求心性迷走神経求心路を介して脳に伝達された後,摂食中枢のある視床下部に働き,ニューロンを変えて摂食亢進と成長ホルモンの分泌を促進する。
基礎研究も含め,グレリンには摂食亢進・拒食症の治療,成長ホルモンの分泌促進による老化予防や小人症の治療などの効果のほか,心血管系の保護作用があり,心筋梗塞や心不全の治療,エネルギー代謝調節作用によるカヘキシア(悪液質)の治療効果が期待されている。漢方薬である六君子湯の適応症は胃炎・食欲不振・胃痛などであるが,実はグレリンを増加させる唯一の経口処方でもある。たとえば,抗癌剤のシスプラチンを腹腔内に投与し,摂食量が低下したラットに六君子湯を投与すると,摂食量が増えることが報告されている(文献2)。また最近,六君子湯によるグレリンシグナル増強は老化促進マウスの寿命を延長するという,新しいメカニズムも報告されている(文献3)。
1) 中里雅光:第124回 日本医学会シンポジウム記録集. 肥満の科学. 2003. [http://jams.med.or.jp/sympo
sium/full/124045.pdf]
2) Takeda H, et al:Gastroenterology. 2008;134(7):2004-13.
3) Fujitsuka N, et al:Mol Psychiatry. 2016 Feb 2. [Epub ahead of print]