先天性横隔膜ヘルニア(CDH)は先天的に横隔膜が欠損することにより腹腔内臓器が胸腔内に脱出する疾患で,頻度は2500分娩に1例程度である。脱出臓器によって正常肺が圧迫され,発育を阻害されることで肺低形成となり,出生直後から呼吸障害と肺高血圧をきたし,厳重な呼吸循環管理を要する重篤な疾患である。ほかに合併奇形のないCDHにおいては肺低形成の程度が児の予後を左右する。CDH児全体の救命率は約60~70%とされ,特に重症例の予後は不良である。このような背景から近年,CDHに対し胎児期に肺低形成を予防する「胎児治療」に注目が集まっている。
現在行われているCDHに対する胎児治療は,胎児鏡下バルーン気管閉塞術(FETO)と呼ばれ,妊娠30週前後に胎児鏡を用い,母体の腹壁から子宮を通じて胎児の気管内にバルーンを留置する治療である。その結果,気管が閉塞し胎児肺から産生される肺胞液が肺内に貯留することで肺の拡張が促され,肺低形成が改善する。欧州の研究では,重篤な合併症を伴わない左側の重症CDH症例に対し生存率が24%から49%と有意に改善したという結果が出ており1),この胎児治療の有用性が報告されている。ただし,気管内のバルーンは分娩前に抜去が必要(主に34週前後)で,抜去には多くの場合,胎児鏡下手術が必要である。FETOの問題点として早産や破水のリスクが指摘されているが,それらは児の予後に直結する因子でもあり,これらをいかに減らすかが今後の課題である。
【文献】
1) Jani JC, et al:Ultrasound Obstet Gynecol. 2009;34(3):304-10.
【解説】
1)津田弘之,2)吉川史隆 名古屋大学産婦人科 1)講師 2)教授