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(1)降圧目標値と降圧薬選択の改訂ポイントの妥当性 [特集:考察 高血圧治療ガイドライン2014]

No.4712 (2014年08月16日発行) P.20

桑島 巖 (臨床研究適正評価教育機構<J-CLEAR>理事長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-27

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  • 糖尿病合併高血圧患者に対しては,ARB,ACE阻害薬を第一選択薬と限定すべきではなく,効率的に降圧できる薬剤選択が重要である

    冠動脈疾患合併患者では抗血小板薬処方が標準治療となっている。再発や出血事故を防ぐためには130/80mmHg未満の厳格な降圧が望ましい

    脳血管障害既往患者の再発予防には積極的降圧治療が不可欠であり,また抗血小板薬や抗凝固薬処方が標準治療となっていることから,130/80mmHg未満の厳格な降圧目標達成が重要である

    年齢の違いによる高血圧の病態を考慮したAB/CDルールにより降圧薬を選択すれば,効率的に降圧目標を達成しやすい

    はじめに

    わが国の「高血圧治療ガイドライン」が2009年版(以下,ガイドライン2009)以来5年ぶりに改訂され,2014年版(以下,ガイドライン2014)1)として出版された。作成にあたり多くの作成委員により侃々諤々の意見交換がされていたが,筆者自身は査読委員を辞退したので,今回は第三者としての立場からガイドライン2014を検証してみたい。
    ガイドライン2014作成に関するコンセンサス形成においてDelphi法などの方法を用い,かつAGREEⅡ(Appraisal of Guidelines for Research and Evaluation Ⅱ)による評価も行ったと称してはいるが,できあがった内容を見ると,作成委員間の意見の不一致(disagree)を反映して,数多くの矛盾や問題点を内包する結果となった。

    1. 「糖尿病合併高血圧患者に対する積極的適応はARB,ACE阻害薬」に異議あり

    「糖尿病合併高血圧患者における降圧薬選択に際しては,ARB,ACE阻害薬が第一選択薬として推奨される」(75ページ)と記載されている。その根拠の一部として示されているのがALLHAT2),VALUE3),CASE-J試験4)であるが,それらはいずれも二次エンドポイントの成績であり,エビデンスとしての信頼性に乏しい。さらに問題なのは,その1つとして挙げられているCASE-J試験の結果に重大な問題が生じていることである。
    カンデサルタン(ブロプレス1397904493)の販売促進材料にCASE-J試験原著論文と異なる図がゴールデンクロスとして強調されたことが,京都大学医学部附属病院循環器内科の由井芳樹氏により指摘された。それを受けて,武田薬品工業は第三者機関による調査報告書を公表した。その中に以下の記載が認められる。
    「武田薬品では(略),既に解析された試験データの中から少しでもカンデサルタンのプロモーションにとって有利なデータを引き出すことを目的とした追加解析について協議を行い,検討した追加解析項目の実施を統計解析の実務担当者であったG助手等に何度も繰り返し働き掛けて,実際に追加解析結果を取得していた。
    このような追加解析の働き掛け行為の中でも,とりわけ糖尿病新規発症に関する追加解析の働き掛けについては,重要な成果を得ることができた。すなわち,武田薬品では,糖尿病新規発症に関する当初の解析の結果が[有意差なし]であることを認識したため,Y氏がG助手に対して糖尿病新規発症の定義と解釈を変更した追加解析の実施を依頼し,G助手がこれを実施したところ,[有意差あり]とのカンデサルタンに有利な解析結果が得られた。この解析結果は,CASE-J試験の結果に反映された」(調査報告書58ページ)
    研究責任者たちがデータ収集と解析に対する製薬企業の不関与の重要性を主張している(『CASE-J物語』先端医学社,2010年,39ページ)にもかかわらず,実際は営利目的を重要視する武田薬品工業が研究結果に大きく関与していたという驚くべき事実が判明したのである。
    このCASE-J試験の結果が,ガイドライン2014の中で合わせて4箇所引用されており,糖尿病合併高血圧患者の第一選択薬としてARB,ACE阻害薬を推奨する根拠とされている。しかし,糖尿病発症予防の薬剤選択に関してはNAVIGATOR試験5)のほうがはるかに重要であり,引用されるべきである。
    NAVIGATOR試験では,危険因子を有する耐糖能異常の症例9306例を対象に,ARB(バルサルタン)群とプラセボ群の糖尿病発症と心血管合併症発症リスクを,二重盲検法により比較している。結果は,バルサルタン群のほうがプラセボ群に比べて,糖尿病新規発症を14%抑制したものの,心血管合併症ではまったく差が認められなかった。バルサルタン群のほうが血圧は有意に下がっていたにもかかわらず心血管合併症を抑制できなかったことは,ARBが“降圧を超えた”ネガティブな臓器保護作用を有していることを示唆する結果であった。
    ガイドライン2014では,ABCD試験やFACET試験といった小規模臨床研究における二次エンドポイントの結果やINVEST試験の後付け解析など,信頼性に乏しい臨床研究の引用が多い。一方,NAVIGATOR試験のように製薬企業に不利になる臨床研究は引用されていない。
    なお,糖尿病発症を一次エンドポイントとした臨床研究であるDREAM試験6)では,糖尿病新規発症についてACE阻害薬ラミプリルのプラセボとの有意差が認められていない。
    前記のことから,糖尿病合併高血圧患者に対してARBおよびACE阻害薬を積極的適応とすることは適正ではない。糖尿病合併高血圧患者において重要なことは,生活習慣の是正とともに降圧薬の種類に関わらない厳格な降圧である。

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