婦人科悪性腫瘍の治療後は婦人科腫瘍医がフォローすることが多く,卵巣機能欠落状態に注意が及んでいない可能性があります。また,再発の起因となることへの疑念,血栓症の懸念などから,ホルモン補充療法に忌避的になっている婦人科腫瘍医もいるようです。ホルモン補充療法を行うべき適切な対象や,治療前・中の検査を含めた注意点を教えて下さい。
東京歯科大学市川総合病院・高松 潔先生にお願いします。
【質問者】
喜多川 亮 東北医科薬科大学医学部産婦人科
婦人科がん治療後におけるQOL阻害の要因としては,他の悪性腫瘍同様,再発・再燃への不安と同時に,両側卵巣摘出術や放射線療法・抗癌剤などによる卵巣機能の廃絶,つまりエストロゲンの消退が特徴的です。実際には更年期障害様症状や性機能低下などのいわゆる卵巣欠落症状に加えて,脂質異常症や心血管疾患,骨粗鬆症,皮膚の変化など多岐にわたります。トータルヘルスケアという観点から,婦人科腫瘍医も再発チェックのみならず,積極的にこれらをピックアップして,対応することが重要です。
これらの疾患・症状に対する最も理に適った方法は,消退したエストロゲンを補うホルモン補充療法(hormone replacement therapy:HRT)であることは言うまでもありませんが,ご指摘の通り,婦人科がんにはホルモン依存性のものが少なくないことから,原病の再発リスクへの影響を考えて躊躇する場合もあると思われます。しかし,子宮頸癌ではサバイバーへのHRTによって,再発リスクが上昇したという報告はありませんし,エストロゲン依存性と考えられる子宮内膜癌や卵巣癌では,最近のメタ解析によると,再発リスクは逆に有意に低下していたことが示されています1)。
さらに2015年には,卵巣癌サバイバーに対するHRTにより,全生存期間や無再発生存期間が有意に延長したというランダム化研究の結果も報告されており2),QOLの向上のみならず,補助療法としての有用性を期待するadjuvant hormone therapy(AHT)という概念も登場してきています。
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