漢方薬は現在2通りの方法で処方されている。診療ガイドラインと伝統医学的診断である。適応となる病名,症状をふまえて処方されることは言うまでもない。
筆者は3年前に茨城県より東京都へ出てきて,漢方薬を良い意味で適切に使っている医師の多いことに驚いた。現在,漢方薬は多くの診療ガイドラインに採用されており,より副作用が少なく,より効く薬剤を選択しようとすると,漢方薬が常に候補に入ることは当然であろう。
しかし,漢方医学には西洋薬にはない原則が1つある。患者から見て方剤は単一であるべきなのである。
漢方薬は収載された古典によって,2世紀の古方とそれ以降の後世方に大別される。たとえば,葛根湯,大建中湯は古方で,補中益気湯,防風通聖散は後世方である。古方は抗炎症作用に優れ,後世方は体力を補う薬が多い。副作用は前者に多く,後者は少ない傾向がある。
後世方は古方をいくつか合わせてつくられている。古方は複数用いてよいが,後世方は単独で用いる。料理で言えば,古方は沢庵,納豆,卵焼きなどのシンプルな料理なので,一定の組み合わせができるが,後世方はカレーライス,シチューのような,それ自体で料理が完結している構造である。区別がわからなければ,とりあえず単方で用いるべきであろう。
さらに,東京では1人の患者が複数の医療機関から複数の漢方薬を処方されているケースも目立つ。患者の立場に立って漢方薬を原則1つにできるよう配慮できないものであろうか。
【解説】
伊藤 隆 東京女子医科大学東洋医学研究所教授