現在,多くの医師が漢方薬を処方している。使用される理由のひとつとして,副作用が少ないことが挙げられる。確かに西洋薬より少ないことは事実であるが,小柴胡湯などの柴胡剤をはじめ,多くの漢方薬に含まれる生薬・黄芩による肝機能障害,間質性肺炎,あるいは生薬・甘草による偽アルドステロン症など,留意すべき副作用はいくつかある。今回,ここ数年で新たに指摘されはじめた副作用である,腸間膜静脈硬化症について紹介したい。
これは腸間膜静脈の硬化(石灰化)に起因する還流障害であり,症状は腹痛,下痢,嘔気・嘔吐などがある。発症は緩徐で予後良好であるが,腸閉塞を繰り返し,手術を要する例もあり,注意が必要である。これまで186例以上の報告があり,そのうち27例が漢方薬を服用していた1)。加味遙遥散が最も多く,ついで黄連解毒湯,辛夷清肺湯であり,服用年数は21例が10年以上であった。生薬では22例が山梔子を含有するものの服用であり,山梔子を含む漢方薬の長期服用が発症原因である可能性が示唆された。一方,山梔子を含まない柴胡桂枝湯の2年間の服用でも報告されており,ほかにも原因は考えられた。
漢方薬は本来,患者の証に応じて必要な期間のみ投与するものであり,漫然と投与すべきものではない。この知見によって改めて,この意義を感じさせられた。
【文献】
1) 大木宇希, 他:日臨外会誌. 2014;75(5):1202-7.
【解説】
河尻澄宏 東京女子医科大学東洋医学研究所