抗核抗体(ANA)はANA関連膠原病〔全身性エリテマトーデス(SLE),混合性結合組織病(MCTD),全身性強皮症,シェーグレン症候群,多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)〕を診断するための検査である。それぞれの疾患を念頭に置いて問診・身体診察を行い,適切に検査をオーダーする
臓器特異的な自己免疫疾患や薬剤,感染症などによってもANA陽性となりうることに注意が必要である
疾患特異的な自己抗体は病型の評価に有用であり,治療方針や予後予測に重要である
近年,複数の筋炎関連自己抗体が保険診療で測定可能となり,診断や治療に発展がみられている
膠原病を診断するための検査といえば,抗核抗体(antinuclear antibody:ANA)が真っ先に挙げられると思われる。ANAは膠原病診療における代表的検査であり,非専門医でも検査をオーダーする機会は多いだろう。しかし,「ANAが陽性であれば膠原病であり,陰性であれば膠原病は否定的である」というように単純ではなく,どのような場合に検査をオーダーし,得られた結果をどのように判断するかについてあらかじめ想定しておかなければ,思わぬピットフォールに陥ってしまうことがある。
ANAは膠原病を診断するための検査ではなく,主に全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE),混合性結合組織病(mixed connective tissue disease:MCTD),全身性強皮症,シェーグレン症候群,多発性筋炎/皮膚筋炎(polymyositis:PM/dermatomyositis:DM)などのANA関連膠原病を診断するための検査であることから,これらの疾患を念頭に置いて疾患特異的な問診をする。いずれも全身の様々な臓器障害を呈する疾患であるため,全身症状を網羅的にチェックすることが必要である(表1)。特に,ANA関連膠原病は手に所見がみられることが多く,爪郭毛細血管の拡張,爪囲紅斑,ゴットロン徴候といった所見は膠原病にかなり特異的であるため,よく観察する。
膠原病以外でも,臓器特異的な自己免疫疾患によってANAが上昇することがあるため,その可能性についても十分に注意する。特に,甲状腺疾患でANA陽性となる頻度が高く,関節痛,筋痛,筋力低下などの膠原病様症状は甲状腺疾患でも起こりうるため,鑑別が重要である。忘れてはならないのが,薬剤によっては薬剤誘発性ループス(ミノサイクリン,ジルチアゼム,メチルドパなど)や筋症(スタチン,コルヒチン,ヒドロキシクロロキンなど),乾燥症状(抗コリン薬,抗ヒスタミン薬,向精神薬など)の原因となったり,ANA陽性となることがあるため注意して聴取する。
どのような場合に検査をオーダーすべきかについて,医療経済的な面からの提言も参考になる。米国では2011年に,米国内科試験委員会が中心になって“Choosing Wisely(検査は賢く選択しよう)”というキャンペーンが行われたが,米国リウマチ学会がそれに賛同し,リウマチ診療における検査の無駄をなくすために考慮すべき5つの項目を提唱した1)。そのトップになったのが「ANAが陽性で自己免疫疾患を疑う場合以外には,ANA関連の特異自己抗体を測定すべきではない」という提言である。ANAの検査をオーダーするにあたって,非特異的な症状のみの場合には,陽性であってもその後のマネージメントは変わらないため検査をすべきではないとした。さらに,通常はANA陰性であれば,抗dsDNA抗体,抗U1-RNP抗体,抗Sm抗体,抗La/SS-B抗体,抗Scl-70抗体,抗セントロメア抗体も陰性となるため,これらの検査はANAを確認したあとに測定するべきであるとしている。ただし,抗Ro/SS-A抗体については,ANAが陰性であっても陽性となることがあるため例外である。
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