一般的に薬効は用量依存性であるとされるが,漢方治療においては漢方薬が効かないとき,増量ではなく,あえて減量することによって効果が期待できることがある。過敏性腸症候群の患者で桂枝加芍薬湯3包/日ではまったく効果がなかったものが,1包/日に減量した途端に奏効したり,瘀血が原因と考えられる腹満を訴える患者に桂枝茯苓丸2包/日を処方したものの,1包/日で症状が最も改善したと言われたこともある。
術後のイレウス予防に用いられる大建中湯に関する報告では,モルヒネ誘発性便秘モデルマウスに大建中湯(30,75,150,300,500mg/kg/日)を投与し排便量を測定したところ,75mg/kg/日の投与によってのみ排便量の低下が有意に抑制され,摘出した上部小腸,直腸に稀釈した大建中湯(2,4,10%)を直接投与したところ,上部小腸では4%大建中湯で収縮が促進し,10%大建中湯では抑制されたという報告もある1)。また,抑肝散も投与量の違いによって鎮痛作用や抗ストレス作用が強くなることも示唆されている2)。
いずれの基礎研究においても,漢方薬の作用が必ずしも用量依存性ではないことが示唆されており,効果がないときに減量を試みるという選択肢はあってよいと思われる。
【文献】
1) 芳田悠里, 他:昭和学士会誌. 2015;75(3):320-8.
2) 砂川正隆:日東洋医誌. 2016;67(別冊):176.
【解説】
山﨑麻由子 埼玉県済生会栗橋病院 腎臓内科・漢方内科科長
伊藤 隆 東京女子医科大学東洋医学研究所教授