日本糖尿病学会は2013年3月18日に「日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言〜糖尿病における食事療法の現状と課題」を発表した。糖尿病における3大栄養素の推奨摂取比率は,一般的に炭水化物50~60%エネルギー(150g/日以上),蛋白質20%エネルギー以下を目安とし,残りを脂質とすることを推奨し,極端な低炭水化物食には警鐘を鳴らしている。
また,学会が2011年から準備を始めていたHbA1cの国際標準化については,13年4月1日以降,日常臨床などにおけるHbA1cのNGSP値を単独表記に移行した。さらに5月16日の第56回年次学術集会で,糖尿病診療と予防の国内外におけるエビデンスや状況をふまえて,熊本宣言2013を発表し,糖尿病患者の血糖管理目標値を「HbA1c7%未満」と改訂し,6月1日より施行したことが特筆される。
約4年前にDPP-4阻害薬,次いでGLP-1作動薬が発売された。DPP-4阻害薬はその血糖依存的な血糖降下作用のため,低血糖や体重減少を来しにくいのが大きな特徴である。単独療法のみならずインスリンを含めた他の血糖降下薬との併用など,今や糖尿病患者の50%以上に用いられており,糖尿病治療のパラダイムシフトを引き起こした。
また,2007年にチアゾリジン系のrosiglitazoneが心筋梗塞の発症を増加させると報告された。その後,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)は新しい血糖降下薬においては心血管イベントに対する影響を明らかにするよう求めた。次いで,13年の欧州心臓病学会(European Society of Cardiology;ESC)では,2型糖尿病患者にサキサグリプチンやアログリプチンを投与したSAVOR-TIMI 53 studyとEXAMINE studyの結果が発表された1)2)。心血管疾患のリスク,または既往歴を有する2型糖尿病患者で,既存治療に対するこれらDPP-4阻害薬の心血管イベント発生率での非劣性が証明された。
またインクレチン関連薬については,当初より急性膵炎のリスクが懸念されてきた。インクレチン関連薬の投与を受けた少数例の2型糖尿病患者の剖検結果から,膵炎ならびに膵臓前がん病変のリスク上昇が報告された3)。その後,本報告に対しては方法論上の問題点が指摘され,欧州医薬品庁(European Medicines Agency;EMA),FDAともに,膵炎のリスクに引き続き注意を払い,膵癌については長期的な評価を行っていくとしている。
前述した2試験での膵炎や膵癌の発症率は,DPP-4阻害薬で対照群と有意な差は見られなかった。この意味においては,DPP-4阻害薬に対する,膵炎や膵癌への懸念もほぼ払拭され,心血管イベントについても増加させることはないとのエビデンスが得られ,安全性もほぼ確立されたと言える。
内分泌疾患の領域では,『甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013』と『原発性骨粗鬆症の診断基準』の2012年度改訂版が発表されたことが特筆される。今後は,クッシング病や甲状腺癌の治療への新しい作用機序を持つ薬剤の登場が期待される。
◉文 献
1) Scirica BM, et al:N Engl J Med. 2013;369 (14):1317-26.
2) White WB, et al:N Engl J Med. 2013;369 (14):1327-35.
3) Butler AE, et al:Diabetes. 2013;62(7): 2595-604.
最も注目されるTOPICとその臨床的意義
TOPIC 1/携帯型人工膵臓をめざした確かな歩み
持続血糖モニタリング(CGM)が普及し,質の良い血糖コントロールが可能になってきた。CGMで測定された血糖値から自動的にインスリン注入を調節するクローズドループインスリンポンプの開発が行われており,近い将来に携帯型人工膵臓の臨床応用が期待される。
この1年間の主なTOPICS
1 携帯型人工膵臓をめざした確かな歩み
2 健常人からして日本人は膵β細胞が欧米人と違う?
3 クッシング病の治療と新しい薬剤への期待
4 甲状腺結節の取り扱いと進行甲状腺癌の薬物治療について
5 骨粗鬆症:我が国における診断基準の改訂と治療薬の新たな展開
インスリンポンプ療法(insulin pump therapy)とも呼ばれるCSII(continuous subcutaneous insulin infusion)は,欧米ではPickupらによる1978年の最初の報告以降,利便性の改善に伴い1型糖尿病患者を中心として使用例が増加している。
一方,1999年から持続血糖モニタリング(continuous glucose monitoring;CGM)が臨床で用いられるようになったが,その数年後にはモニターとセンサーの無線交信により直近の血糖値が画面に表示されるリアルタイムCGM(パーソナルCGMとも呼ばれる)が数社から販売された。なお,従来の機種はレトロスペクティブCGM(あるいはプロフェッショナルCGM)と呼ばれ,主に医療従事者が患者の日常生活下での血糖曲線を評価し,治療法の調整を行う目的で使用する。我が国では,2009年にレトロスペクティブCGMであるメドトロニックミニメドCGMS-Gold®が承認され,最近では小型で低侵襲かつ簡便なiPro®2が使用可能となっている。
患者自身が血糖値をリアルタイムで確認できるメリットは大きく,リアルタイムCGM,および2006年に発売されたCSIIとリアルタイムCGMを併用した機器(sensor augmented pump;SAP)を使用することにより,1型糖尿病患者において低血糖の増加なく血糖コントロールの改善が可能となった。さらに,低血糖時に自動的にCSIIのインスリン基礎注入を一時停止する機能が付加された機種が開発され,2009年から欧州で使用が可能となった。そして,最近2つの1型糖尿病患者での無作為化試験において,夜間低血糖の既往がある患者における夜間低血糖の有意な減少1)と,無自覚低血糖の危険性が高い患者における重度〜中等度の低血糖の有意な減少2)が報告された。
こうした成績を受けて,CGMで測定された血糖値により自動的にCSIIからのインスリン注入が調節されるクローズドループ(closed loop)インスリンポンプ(あるいは人工膵臓,artificial pancreas)の開発が盛んに行われている3)。さらに,インスリンのみではなく,グルカゴンも投与するdual-hormone artificial pancreasも試みられている。血液中と皮下測定したブドウ糖濃度のタイムラグやインスリン投与が皮下であるための効果の遅れという問題点があり,アルゴリズムの改良など課題は残されているが,近い将来に携帯型人工膵臓が実現することが期待されている。我が国では,こうした機器の導入は遅れているが,今後の承認と普及を期待したい。
(粟田卓也)
◉文 献
1) Bergenstal RM, et al:N Engl J Med. 2013; 369(3):224-32.
2) Ly TT, et al:JAMA. 2013;310(12):1240-7.
3) Blauw H, et al:Diabtes Technol Ther. 2013;15(8):619-21.
2型糖尿病発症前には,肥満,過食,運動不足によるインスリン抵抗性,血糖増加に対して膵β細胞のインスリン過剰分泌による代償機構が働き,血糖値は正常に保たれる。上記の状態が続くと徐々に膵β細胞機能が低下し,2型糖尿病発症時点で50%以下になっていることが1990年代の英国における前向きコホート研究から判明している。その一因として,β細胞死いわゆるアポトーシスやアミロイドペプチドの沈着が推測されている。剖検のデータから2型糖尿病のβ細胞容積は,健常人に比べて肥満,非肥満群どちらの群においても半分以下に減少していると報告されている。ただ,以前から健常人または境界型糖尿病患者のβ細胞機能は,日本人は欧米人と比較して低下していると報告されており,そのことから軽度の肥満などによるインスリン抵抗性で2型糖尿病を発症することがわかっている。健常人におけるβ細胞機能の人種差のメカニズムは明らかにされなかったが,2013年になって日米で健常人の剖検から肥満や高齢によるβ細胞量の変化に関する検討が報告された。
米国人の剖検報告1)では,肥満群では非肥満群に比べて,50%以上もβ細胞量が増えており,その増加はBMIと相関していた。さらにβ細胞量の増加は1つの細胞の肥大化ではなく,β細胞の新生による細胞数の増加であった。このβ細胞数の増加は,免疫染色などからβ細胞の複製ではなく,β細胞の新生(別の細胞から分化)で増えたと考えられた。また,同じBMI例と比較した年齢別によるβ細胞量の変化では,20歳から100歳まで一定に保たれていた。β細胞死に関しては,健常人では肥満,高齢により有意な増加は認められていない。
一方,日本人の報告2)では,前述した米国人のデータとは違い,肥満群では非肥満群に比べてβ細胞量の有意な変化は認めていない。同様にβ細胞の複製,新生,アポトーシスにも有意な変化は認めていない。これらの報告から欧米人と日本人では,そもそも肥満に対するβ細胞量の変化に違いがあり,それが日本における健常人のβ細胞機能が欧米人と異なる原因の1つとなりうる可能性が考えられた。同じ2型糖尿病であっても欧米人と日本人のβ細胞はかなり異なる形質を有しており,欧米の臨床データやEBMをそのまま受け入れるのではなく,日本人もしくはアジア人に適した治療アルゴリズムを構築していく必要があるだろう。
なお,β細胞の増殖を促進するアミノ酸198個からなるbetatrophin(ヒトでは肝臓で主に産生される)が発見され,今後さらなる研究が期待される3)。
(保坂利男)
◉文 献
1)Saisho Y, et al:Diabetes Care. 2013;36 (1):111-7.
2)Kou K, et al:J Clin Endocrinol Metab. 2013; 98(9):3724-30.
3)Yi P, et al:Cell. 2013;153(4):747-58.
クッシング病は,副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone;ACTH)産生下垂体腺腫により慢性的な高コルチゾール血症を来し,様々な合併症を生じさせQOLが悪化し,死亡率を一般成人の4倍に高める。合併症の頻度は高く,高血圧,耐糖能障害,脂質異常症,腹部肥満,うつ状態などを認め,これらから心血管疾患を来す。Lambertら1)が報告した経蝶形骨洞下垂体摘出術を受けた346名の予後解析によると,罹病期間が長く,診断時の年齢や術前のACTH濃度が高いほど死亡リスクが高く,さらにうつ病や男性であることや糖尿病も死亡リスクに関与した。死亡率はクッシング病治癒群4.4%に対して非治癒群は11.1%と高値である。このためクッシング病の早期根治が望まれる。
クッシング病の第一選択治療は経蝶形骨洞下垂体摘出術である。しかし手術による完治例は60~90%と幅が広く,再発例も約25%に認める。このため非治癒,手術困難例に対しては,放射線療法も含めたより確実な保存的治療が求められる。従来使用されてきた薬物療法として下垂体に直接作用するカベルゴリンは尿中コルチゾールを30%程度正常化するが,数カ月後にescape現象を認める。副腎皮質へ直接作用するメチラポンは高コルチゾール血症を早急に是正するが,長期使用により高血圧や浮腫,低カリウム血症,女性の多毛を来す難点がある。副腎癌で使用されるオペプリムもクッシング病で使われることがあるが,副作用の点から限界がある。そのため近年では,5型ソマトスタチン受容体に親和性の高いpasireotideが開発され,ACTH分泌を30~40%抑制し,尿中コルチゾール排泄を50%以上低下させる効果が認められた。欧米や日本で第Ⅲ相まで臨床試験が進んでおり,今後が期待される薬剤である2)。ただ,本薬はGHとIGF-1を強力に抑制するため注意を要する。
副腎に対する薬物療法以外では両側副腎摘出術がある。これはACTH非依存性大結節性副腎皮質過形成(ACTH-independent macronodular adrenal hyperplasia;AIMAH)のような両側副腎病変にも適応がある。最近ではAIMAHは副腎組織内のコルチコトロピンが病因であると言われ,コルチコトロピン受容体拮抗薬が治療薬になる可能性も示唆されている3)。
(波多野雅子)
◉文 献
1)Lambert JK, et al:J Clin Endocrinol Metab. 2013;98(3):1022-30.
2)Richard A, et al:J Clin Endocrinol Metab. 2013;98(2):425-38.
3)Louiset E, et al:N Engl J Med. 2013;369 (22):2115-25.
健康診断での超音波検査の普及から,無症候性甲状腺結節の発見が増えている。その頻度は18.6%と比較的高く,甲状腺癌においては0.49%とされている1)。したがって,臨床的に悪性度が高い甲状腺癌を効率よく発見することが求められる。2013年8月に『甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013』が出版され,次の甲状腺結節では穿刺吸引細胞診が推奨されている2)。
まず充実性結節では,①20mm径より大きいか, ②10mm径より大きく超音波検査で何らかの悪性を示唆する所見があるか,③5mm径より大きく超音波検査で悪性を強く疑うか,④径によらずリンパ節転移や甲状腺被膜外への浸潤を認めるか,を確認する。次に充実性成分を伴う嚢胞性結節では,①充実性成分の径が10mmを超えるか,②充実性成分に悪性を疑う超音波検査所見があるか,を確認する。さらに小児期の放射線照射の既往,甲状腺癌の手術・家族歴,硬く可動性のない結節,嗄声や頸部腫大リンパ節,遠隔転移の存在,カルシトニン高値,FDG-PET/CT陽性など,がんの危険因子となる所見に注意を払う。本ガイドラインが出版されたことにより,甲状腺結節に対する診療のさらなる向上が期待される。
甲状腺結節,特に甲状腺癌の治療には外科的治療が推奨されている。分化型甲状腺癌では,転移症例でも放射性ヨード内用療法の効果が期待できる症例が多い。しかし,放射性ヨード内用療法に抵抗性を示す症例も少なからず存在し,従来このような症例にエビデンスのある薬物療法はなかった。
2013年の『第49回米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology;ASCO)年次総会』で,放射性ヨード内用療法に対する治療抵抗性や進行性を示す分化型甲状腺癌の症例を対象にした無作為化プラセボ対照第Ⅲ相試験DE CISIONで,BRAF変異阻害と血管新生阻害の両方の作用を持つ分子標的薬ソラフェニブの有効性が発表された3)。化学療法やほかの分子標的薬による前治療歴のない,放射性ヨード治療抵抗性の局所進行,または転移を有する分化型甲状腺癌患者で,主要評価項目の無増悪生存期間がプラセボ群の5.8カ月に対し,本薬群では10.8カ月と有意に延長し(ハザード比0.587,P<0.0001),病勢増悪のリスクも40%以上改善した。
2013年10月にソラフェニブの適応追加申請が行われ,治療の選択肢が増えることが望まれる。
(皆川晃伸)
◉文 献
1) 志村浩己:日甲状腺誌. 2010;1(2):109-113.
2) 日本甲状腺学会, 編:甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013. 南江堂, 2013.
3) Brose M, et al:J Clin Oncol(ASCO Annual Meeting Abstracts). 2013;31(18):suppl 4.
2013年の幕開けとともに,原発性骨粗鬆症の新たに改訂された診断基準が発表された。図1にフローチャートを示す。注目すべきは脆弱性骨折の中でも二次骨折を惹起するリスクが高い椎体・大腿骨近位部骨折があれば,骨密度に関係なく原発性骨粗鬆症と診断される点である1)。
破骨細胞の分化・機能発現に必須のサイトカインであるRANKL(receptor activator of nuclear factor κB ligand)の作用を抑制するデノスマブに関する研究が報告された。Tsaiら2)は,骨吸収を抑制する抗RANKL抗体であるデノスマブとテリパラチドの各単独療法と2剤併用を比較し,開始後1年目で腰椎・大腿骨頸部骨密度が併用群で有意に増大したと報告している。
また,カテプシンK阻害薬のodanacatibが本年中に登場する。カテプシンKは破骨細胞において特異的に発現するプロテアーゼで,骨のコラーゲン分解に関わる。同薬は、骨形成を抑制せず骨吸収を低下させると考えられる。日本人での有効性と安全性を評価した比較試験では,腰椎・股関節において骨密度を増加させ,忍容性も高かった3)。
これらの原発性骨粗鬆症における診断基準の改訂と新たな薬剤の登場は,骨折リスクの高い骨粗鬆症患者に対して新たな希望となりうるものである。
(安田重光)
◉文 献
1) 宗圓 聰,他:Osteoporo Jpn. 2013;21(1):9-21.
2) Tsai JN, et al:Lancet. 2013;382(9886):50-6.
3) Nakamura T, et al:Osteoporos Int. 2014; 25(1):367-76.