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(2)糖質制限:コンスの立場から [特集:糖質制限のプロス&コンス]

No.4779 (2015年11月28日発行) P.32

福井道明 (京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-02

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  • 2型糖尿病における食事療法は,総摂取エネルギーの適正化によって適正体重を維持し,高血糖のみならず糖尿病の種々の病態を是正することを目的としている

    糖尿病では動脈硬化性疾患や糖尿病性腎症など種々の臓器障害の予防を勘案した栄養素摂取比率が求められている

    低炭水化物食は,欧米での研究で,短期的には減量や血糖コントロールの改善につながるとして注目されている

    総摂取エネルギーを制限せずに,炭水化物のみを極端に制限して減量を図ることは,長期的な遵守性や安全性などを担保するエビデンスが不足している

    長期にわたる継続を可能にするためには,安全性とともにわが国の食文化あるいは患者の嗜好性に対する配慮が必要である

    1. 食品交換表

    食事療法を行うことにより,血糖コントロール状態は改善するため,すべての糖尿病患者にとって食事療法は糖尿病治療の基本である。日本糖尿病学会が作成した『糖尿病食事療法のための食品交換表』(以下,「食品交換表」)1)は,糖尿病の食事療法とは何か,どのような食品摂取が望ましいのか,という観点から作成された食事療法のテキストとなっている。したがって,「食品交換表」に従って食事計画をたて,異なる栄養素を含む食材を過不足なく選べば,治療にふさわしいエネルギー量,栄養素を摂取できる仕組みが要求される。
    日本糖尿病学会が推奨する「食品交換表」に基づくエネルギー調整とは,糖尿病治療の原則である個人のライフスタイルを尊重しながら,適正なエネルギー量で,栄養バランスが良く,規則正しい食事を実践し,糖尿病合併症の発症または進展の抑制を図れる手法である。

    2. 総摂取エネルギーの適正化

    2型糖尿病における食事療法は,総摂取エネルギーの適正化によって適正体重を維持し,インスリン作用からみた需要と供給のバランスを円滑にし,高血糖のみならず糖尿病の種々の病態を是正することを目的としている。インスリンの作用は糖代謝のみならず,脂質ならびに蛋白質代謝など多岐にわたっており,これらは相互に密接な関係を持つことから,食事療法を実践するにあたっては,個々の病態に合わせ,高血糖のみならず,あらゆる側面からその妥当性が検証されなければならない。さらに,長期にわたる継続を可能にするためには,安全性とともにわが国の食文化あるいは患者の嗜好性に対する配慮が必要である。諸外国においても,生活習慣への介入による肥満の是正を重要視し,そのために総摂取エネルギーを調整し,合併症に対する配慮の上で三大栄養素のバランスを図ることが推奨されている。
    しかし,各栄養素についての推定必要量の規定はあっても,相互の関係に基づく適正比率を一意に定めるのに十分なエビデンスは乏しい。このため,三大栄養素のバランスの目安は健常人の平均摂取量に基づいているのが現状であるが,糖尿病では動脈硬化性疾患や糖尿病性腎症など種々の臓器障害を合併することから,予防のための食事療法がそれぞれ設定されており,その中で栄養素摂取比率を勘案することが求められている。
    実際には,個々の症例の長期にわたる食習慣を加味した,個別の食事指導を実践することが必要とされる。したがって,血糖値,血圧,血清脂質値,身長,体重,年齢,性別,合併症の有無やエネルギー消費(身体活動)などを十分に評価して,摂取エネルギー量を調節する必要がある。

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