医療用漢方処方148処方中17処方に配剤されている黄連・黄柏に関して,第39回日本中毒学会(2017年,つくば市)で発がん性,生殖毒性などの可能性について講演がなされた。黄連・黄柏は医療用漢方処方だけでなく,一般用医薬品にも数多く用いられており,本件に関しては,Medical Tribune1)などに加えて一般週刊誌などでも報じられ,医療関係者のみならず一般市民にも少なからず影響を与えている。
動物実験において,黄連と同じくベルベリンを含むヒドラスチス根粉末に肝発がん性が認められたことが10年に報告された2)。13年にベルベリンが,in vitroでDNA損傷作用のあるtopoisomeraseⅡ阻害活性を有していることが指摘された3)。
これらに基づく主張は,多成分のヒドラスチス根粉末の実験結果を,in vitroのベルベリンによるDNA損傷作用のみに帰結させているにすぎない。漢方薬の成分は経口投与され,消化吸収される。その成分を直接添加した実験結果のみを根拠として,その副作用を論じている点において,論理には飛躍があり,妥当性は疑わしい。
医薬品の有効性・安全性を論じる上で,今後適正なリスク評価によって明らかにしていく必要があるであろう。
【文献】
1) 内藤裕史:漢方薬の生殖毒性, 遺伝子毒性, 発がん性. 2014. [https://medical-tribune.co.jp/news/ 2017/0802509767/1407001.html]
2) National Toxicology Program:Natl Toxicol Program Tech Rep Ser. 2010;562:1-188.
3) Chen S, et al:Toxicol Lett. 2013;221(1):64-72.
【解説】
馬場正樹*1,矢久保修嗣*2 *1明治薬科大学臨床漢方研究室准教授 *2同教授