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(3)分子標的薬時代における抗癌剤治療のvalueについて [特集:大腸癌における分子標的薬の課題]

No.4796 (2016年03月26日発行) P.27

島田安博 (高知医療センター副院長,腫瘍内科長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-26

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  • がん薬物療法の目標の多様化により治療戦略が変化し,生存期間の延長以外の評価項目が検討されている

    分子標的薬の治療効果と,有害事象・医療費などのリスク・ベネフィットが徐々に明確になってきた

    薬価に見合うだけの臨床効果があるか,すなわち,患者にとってvalue(個々の価値観からみた治療法の意義)を考慮した治療選択を行うことが必要である

    新規治療法の臨床評価はevidence-based medicine(EBM)からvalue-based medicine(VBM)へパラダイムシフトが必要である

    1. 大腸癌薬物治療の目的と分子標的薬

    分子標的薬や化学療法薬を含めた抗癌剤治療の目的は,腫瘍縮小,病状悪化までの期間延長,全生存期間の延長などの客観的指標である「主作用」をもとに臨床評価が実施されてきた。一方で有害事象,QOL(quality of life),入院期間などの「副作用」も付随的に評価され,最終的に新規治療の臨床的有用性を判断し最終評価が行われてきた。
    また,切除不能進行・再発大腸癌の予後は現時点で30カ月以上と従前の無治療群6~8カ月の時代から画期的進歩を実現し,結果的に長期に及ぶ治療期間への対応が必要となった。さらに国内においては,患者の高齢化,合併症を有する患者の比率の増加もあり,治療目標の多様化が議論されている(図1)。すなわち,生存期間の延長を目標として多少の有害事象も受け入れるというグループ,強い有害事象も許容して,高度の腫瘍縮小をめざし転移巣を含めた完全切除・治癒を志向するグループ,そして生存期間の延長よりも,比較的軽度の有害事象でQOLを維持しながら日常生活を確保するグループの3つに大別して治療戦略を計画することが必要となってきている。抗癌剤治療に関するリスクを含めた十分な内容説明,患者の高齢化などから第三のグループに含まれる患者が徐々に増加する傾向にはあるが,実臨床では積極的に生存期間の延長をめざした抗癌剤治療がまだ主流である。
    大腸癌領域での分子標的薬は,抗VEGF(vascular endothelial growth factor)抗体薬のベバシズマブ(アバスチン1397904493),抗EGFR(epidermal growth factor receptor)抗体薬のセツキシマブ(アービタックス1397904493),パニツムマブ(ベクティビックス1397904493),マルチキナーゼ阻害薬のレゴラフェニブ(スチバーガ1397904493)が承認され,さらに,最近臨床試験で有用性が検証された抗VEGFR2阻害薬のramucirumab(サイラムザ1397904493)が承認申請中の状況である。これらの臨床効果は,複数の大規模比較試験において統計学的有意差をもって生存期間の延長が検証され,国内外で承認を受けたものである。したがって,「科学的(統計学的)根拠」は申し分ないと評価される。EBM(evidence-based medicine)を基本とする治療ガイドラインは,これら新規薬剤を推奨薬剤として掲載しており,実診療での使用を推進している。

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