抗リン脂質抗体症候群は,周産期領域では不育症,早産,胎児発育不全,妊娠高血圧症候群に関係する
周産期管理として①早産の予防・治療,②胎児発育不全の発見・対応,③胎児well-beingの観察,④血栓症の早期発見・予防,が大切である
抗リン脂質抗体陽性例の治療では低用量アスピリン療法,ヘパリン療法が行われるが,投与開始時期,中止時期,投与法などを熟知し施行する必要がある
ヘパリン療法では,未分化ヘパリンと低分子ヘパリンとの治療効果に差異があることや,副作用としてヘパリン起因性血小板減少症(HIT)を見逃さないことに注意する
周産期に特に関連する診断基準では,妊娠10週以降の原因不明子宮内胎児死亡(形態学的異常なし),妊娠34週未満の重症妊娠高血圧腎症・子癇や胎盤循環不全と認識できる早産(形態学的異常なし)が含まれていることに注目すべきである1)。
抗リン脂質抗体はリン脂質に対する自己抗体のみではなく,リン脂質に結合するβ2-グリコプロテインI(GPⅠ),プロトロンビン,キニノゲンなどの分子(コファクター)に対する抗体が発見され,むしろコファクターに関連する抗体が病態と関連するとされる2)。抗リン脂質抗体には,抗カルジオリピン抗体,抗β2GPⅠ抗体,抗フォスファチジルセリン抗体,抗フォスファチジルセリン・プロトロンビン抗体(抗PS/PT抗体),抗フォスファチジルエタノールアミン抗体,ループスアンチコアグラント(LAC)などがあるが,一般に抗カルジオリピン抗体,抗β2GPⅠ抗体,ループスアンチコアグラントが用いられる。また,血栓症との関連では抗PS/PT抗体が注目されているが,周産期領域では頻度が低い3)。
抗カルジオリピン抗体の中でも病的意義が強いとされる抗CL・β2GPⅠ抗体については,陽性率は,習慣流産で6.7~8.6%,妊娠高血圧腎症で10%以下である4)。 抗フォスファチジルエタノールアミン抗体IgG,IgMおよびIgAの習慣流産での出現率はそれぞれ20.1%,12.2%,1.4%で,どれかが陽性の頻度は31.7%である5)。また,厚生労働省研究班の報告では23.5%であった。習慣流産での抗リン脂質抗体の出現頻度は,2009年の厚生労働省研究班「不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究」では,抗フォスファチジルエタノールアミン抗体を除く抗リン脂質抗体全体で9.2%であった6)。抗PS/PT IgG抗体は,習慣流産で3.4%,妊娠高血圧腎症で2.5%であった3)。
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