(京都府 O)
ご指摘の通り,わが国と欧米では,切迫早産に使用する薬剤が大きく異なっています。わが国では切迫早産に対して,90%以上の施設が塩酸リトドリンを子宮収縮抑制薬の第一選択薬として使用しています1)。
一方,米国では,塩酸リトドリンは既に販売されておらず,欧州においても使用頻度はかなり低くなっています。欧米で塩酸リトドリンの代わりに子宮収縮抑制薬として主に使用されているのは,米国では硫酸マグネシウム2),欧州ではカルシウム拮抗薬あるいはオキシトシン拮抗薬(わが国では未販売)です3)。
ただし,欧米で主に行われている子宮収縮抑制(tocolysis)方法は,肺成熟を促すためのステロイドの効果が現れる48時間まであるいは母体を高次施設に搬送するまでの間に限って子宮収縮抑制薬を使用するacute tocolysisです2)。
一方,わが国では多くの施設で子宮収縮抑制後も子宮収縮再発予防の目的で長期にtocolysisを続けるmaintenance tocolysisが行われていますが1),maintenance tocolysisには,周産期予後を改善するとのエビデンスがなく,最近のカルシウム拮抗薬の研究でも効果は否定されています4)。
また,母体への重篤な副作用のリスクのため,米国食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)は,塩酸リトドリンなどのβ刺激薬や硫酸マグネシウムの長期投与に関して警告を発しています5)~7)。さらに,英国NICEのガイドライン8)やWHOの勧告9)では,tocolysis自体「行わなくてもよい」という記載になっています。
現在,欧米では,頸管長が短縮し規則的な子宮収縮を認めるような切迫早産に対する治療よりも,早産ハイリスク例に対する予防的治療が主流になってきています10)。その予防的治療の主流はプロゲステロン製剤であり,早産既往症例に対する17α-hydroxyprogesterone caproateと妊娠24週までの子宮頸管長短縮症例に対するプロゲステロン腟錠あるいは腟ゲルが用いられています。前者はわが国でも以前から使用されていた薬剤ですが,後者は現在わが国では保険適用がなく,今後早産予防に適応が認められることが期待されます。
【文献】
1) 大槻克文, 他:周産期シンポ. 2016;34:15-8.
2) Fox NS, et al:Obstet Gynecol. 2008;112(1):42-7.
3) de Heus R, et al:BMJ. 2009;338:b744.
4) Roos C, et al:JAMA. 2013;309(1):41-7.
5) FDA Drug Safety Communication:New warnings against use of terbutaline to treat preterm labor.
[http://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm 243539.htm]
6) FDA Drug Safety Communication:FDA Recommends Against Pro-longed Use of Magnesium Sulfate to Stop Pre-term Labor Due to Bone Changes in Exposed Babies. [http://www.fda.gov/Drugs/Drug Safety/ucm353333.htm]
7) European Medicines Agency:Restrictions on use of short-acting beta-agonists in obstetric indications-CMDh endorses PRAC recommendations.
[http://www.ema.europa.eu/ema/index.jsp?curl= pages/news_and_events/news/2013/10/news_detail_001931.jsp&mid=WC0b01ac058004d5c1]8) Royal College of Obstetricians and Gynaecolo-gists:Tocolytic Drugs for Women in Preterm Labour.
[http://www.alabmed.com/uploadfile/ 2014/0213/20140213093136151.pdf]
9) WHO:WHO recommendations on interventions to improve preterm birth outcomes:Highlights and Key Messages from the World Health Organization’s 2015 Global Recommendations.
[http://www.who.int/reproductivehealth/publications/maternal_perinatal_health/preterm-birth-highlights/en/]
10) Society for Maternal-Fetal Medicine Publications Committee, with assistance of Vincenzo Berghella: Am J Obstet Gynecol. 2012;206(5):376-86.
【回答者】
青木宏明 東京慈恵会医科大学産婦人科学講座