(長野県 K)
1型糖尿病患者を実際に診療する機会は確かに少ないのですが,劇症や急性発症1型糖尿病でなくても,2型糖尿病と診断され数年~治療経過中に発症する緩徐進行1型糖尿病が8~10%存在する1)ということを考えると,糖尿病患者数が増加して糖尿病専門でない医師の方々に糖尿病の診療をお願いしなくてはならない現状で,患者-医療者関係における継続治療が望ましいこともあり,診療する機会も増えることが予想されます。
診察においてまず重要なのは,初診の段階で生命に関わる劇症1型糖尿病を見逃さないことです。2型糖尿病に隠れている緩徐進行1型糖尿病は,発症初期にインスリン自己注射を導入すればインスリン分泌低下を遅らせることができるという報告もあります2)。内服治療中の2型糖尿病患者で生活習慣などの変化がないにもかかわらず,血糖コントロールが悪化したときの血中Cペプチドによるインスリン分泌の確認や,抗GAD(glutamic acid decarboxylase)抗体などの自己抗体の有無の確認などは,早期発見のために重要です。
(1)診療における注意点
糖尿病の治療は生活習慣の改善に重きを置きがちですが,2型糖尿病の治療(もちろん制限ばかりで治療するわけではありません)と違い,1型糖尿病では,「糖尿病でない人と同じ生活を,その人らしく健康的に生きること」が目標になるので,本人の希望体重(適正体重)を守りながら,バランスのよい食事や適度な運動をすることは本人に任せることになります。糖尿病でない人でも体重増加は,高血圧や脂質異常症を増やし,動脈硬化性疾患の危険因子となるため,よくないのと同様です。
ただ,インスリンの自己注射や血糖測定がありますので,カーボカウントを学び,摂取した炭水化物の量をもとに適正なインスリン量を自分で決めたり,血糖値が高いときに適正な血糖値に戻すための補正インスリンを自分で決めたりします。運動するときや仕事のとき,夜勤など勤務時間が不規則なときにインスリンをどのように注射するかなど,普通の生活をしていくために,1型糖尿病患者はそれぞれの生活の中で自分に合った方法を見つけていかなければなりません。
知識がない状態ではできませんので,最初は,専門の病院で医師からだけではなく栄養士や看護師,薬剤師などから教育を受ける必要があります。そういった知識をトライ&エラーで自分に合った形に変えていくこと,医療者は修正を確認していくことが重要です。その上で,治療や生活の中で患者が感じているストレスを受け止め,ともに悩み,考えていく姿勢が医療者には求められます。
インスリンポンプやflash glucose monitoring(FGM)など(すべての1型糖尿病患者にとってではありませんが),治療に対するストレスを軽減する最新の手段もありますので,専門病院との連携がどうしても必要なときがあります。患者─医療者関係を大切にし,治療や生活における心理面をサポートしながら,抱え込まず紹介のタイミングを考えて診療に当たって頂ければと思います。
(2)生存率の指標
日本人1型糖尿病患者に特化した生存率の指標になるものは,現在,残念ながらありません。スコットランドに1型糖尿病患者に特化した統計があり,70歳まで生存すると予測される割合は,糖尿病のない一般集団の男性76%,女性83%に対し,1型糖尿病では男性47%,女性55%でした3)。
日本人糖尿病患者の平均寿命は,10年ごとに統計がとられており,日本人の平均寿命との差は縮まってきていることが示されています4)。インスリン治療の改良や合併症治療の進歩により,日本人1型糖尿病患者の寿命も同様に延びていることは間違いないと思われます。
【文献】
1) 田中昌一郎, 他:糖尿病. 2013;56(8):590-7.
2) Maruyama T, et al:Ann N Y Acad Sci. 2003;1005: 362-9.
3) Livingstone SJ, et al:JAMA. 2015;313(1):37-44.
4) Nakamura J, et al:J Diabetes Investig. 2017;8 (3):397-410.
【回答者】
山﨑真裕 京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学講師