HIV例においてはなるべく早期に抗HIV療法(cART)を開始することが予後を改善し,また他者への感染の予防にもつながる
HIV例における慢性腎臓病(CKD)・心血管疾患(CVD)の有病率は,一般人口と比べて高いとされている
抗HIV薬の一部は,見かけ上,血清クレアチニンを上昇させるため注意が必要である
わが国のHIV例における心血管疾患の有病率はデータが乏しい
HIV例における禁煙指導は予後を改善するため重要である
HIV感染症における治療・予防の概念は劇的な変化を遂げている。治療薬の進歩により感染者の予後は改善し,先進国では非HIV感染者に近い余命が見込めるようになった。また,HIV感染症の進行の指標であるCD4陽性リンパ球数の値を問わず,すべてのHIV感染例において,なるべく早く抗HIV療法(combination antiretroviral therapy:cART)を開始することが予後を改善することが明らかとなった1)。さらに,cARTにより血液中のHIV量が抑えられた例では,他者への感染性を失うことが明らかになり,治療による予防(treatment as prevention)と呼ばれHIVの予防戦略の大きな柱となっている2)。
上述のように,感染例の予後改善,かつHIVの予防の観点からも,HIV感染例の早期診断・早期治療開始は非常に重要となっている。
一方で,cARTによる治療を受けてウイルスが抑制されていても,HIV感染の直接的または間接的な影響による免疫不全・免疫賦活化,慢性炎症などが原因となり,HIV感染例は非HIV感染例に比べて心血管疾患,骨粗鬆症,認知機能障害,悪性腫瘍などの合併症が多いとされている3)。そのため,それらの合併症の管理はHIV診療における大きな課題である。