巻頭言
わが国では全人口の約25%が慢性痛を保有しており,その大部分が満足する鎮痛を得ていないことが知られています。一方, 慢性痛の多くは完治が困難で, 長期にわたる疼痛管理と心理社会的な面でのバックアップが必要とされています。
一般に患者が「痛い」と訴えるとき,NSAIDsを中心とした鎮痛薬が処方され,それでも痛みが緩和されないときにはそれ以上の手段がとられない場合が多いと思われます。最近になって慢性痛に対する理解が進み,抗うつ薬,抗痙攣薬,麻薬性鎮痛薬などが用いられるようになってきましたが, 一方で, それらが漫然と処方され,痛みの機序や日常生活におけるQOLの向上には目が向けられていないといったケースも稀ではありません。
「慢性痛」と一言で言っても多くの疾患や病態があり, 治療法も一様ではなく,様々な面からアプローチすべき対象であることが明らかです。特に慢性痛の治療には集学的な疼痛管理が非常に重要と考えられます。残念ながらそのような集学的疼痛管理を行っている施設はわが国ではまだ非常に限られていますが, そのような考え方を持って慢性痛患者の診療に当たることで, 多面的な対応が可能になることも多いと思われます。
このたび,実地医家を主な読者とするにて「慢性痛」をテーマとして取り上げるとのことで,慢性痛がいわゆる急性の痛み(外傷や術後早期の痛みなど)とは異なること, 治療の焦点を日常生活の質の向上に向けるべきであること,そしてそのためにはどのようにこの痛みを管理したらよいかなどが, わかりやすく読み進められるよう企画してみました。
日常診療でよく遭遇する慢性痛を取り上げ, そのマネージメントをどうすればよいのか, 各項目での重要なポイントや要点がしっかりわかるよう, またどの科の医師でも理解できるよう,執筆者の先生方に工夫してご解説頂きました。
執筆者の先生方には, 上記の編集意図に沿って, お忙しい中ご執筆を頂きました。この場を借りまして厚く御礼申し上げます。本企画が実地医家の日常診療において役立ち, またひいては慢性痛患者さん方の疼痛緩和に少しでも寄与できればと願っています。