消化器疾患と心身症の関連性は以前より指摘されていたが,消化器疾患の診断が器質的疾患に重きを置かれ発展してきたことにより,重要視されていなかった。近年,機能性胃腸障害(FGIDs)の疾患概念・分類が確立されたことにより,機能的消化管疾患が注目されつつある。しかし,臨床的には器質的疾患の除外を行い,腹部不定愁訴に対しFGIDsの分類により,診断・治療しているのが現状である。脳腸相関によりFGIDsが発症しているため,中枢における脳機能の状態,末梢における消化管機能の状態を把握することは,その病態解明,治療効果評価,心身医学的アプローチに対し必須である。脳および消化管の機能評価が,簡便に,非襲侵的に,可視化されることが期待される。
画像診断や血液検査で異常がないのに“胃が痛い”“胃がもたれる”“下痢と腹痛が続く”“お腹が痛い”など,いわゆる腹部不定愁訴を訴える患者は日常臨床で多くみられる。疾患はX線検査や内視鏡検査,超音波検査などで診断がつく器質的疾患と,そのような検査では診断がつかない機能的疾患にわけられる。
胃腸の症状で医療機関を受診する患者のうち,60~70%は機能的疾患と言われている。消化管の機能的疾患を総称して機能性胃腸障害(functional gastrointestinal disorders:FGIDs)と呼んでいる。悩み・不安・恐怖などにより胃にびらん・潰瘍をきたす急性胃粘膜病変や,重症感染性腸炎後,腹痛・下痢症状をきたす過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)など,FGIDsは脳から胃腸へ,胃腸から脳へ影響しあう脳腸相関(brain-gut interaction)により生じる。器質的疾患であっても,受診から診断までに時間がかかれば,その症状は脳腸相関により,うつ状態などの精神症状をきたすため,早期診断・治療が必要であり,心身症的アプローチが必要である。
FGIDsは,器質的疾患を鑑別し,Rome Ⅱ/Ⅲの診断基準に準じて診断されるが,積極的な画像診断が臨床的に少ないのが現状であり,除外診断的な疾患である。消化管機能を画像として可視化できれば,積極的な診断を行うことができ,かつ薬物効果評価,心身医学的アプローチ法の確立・評価に寄与すると思われる。
FGIDsとは,消化器愁訴がありながら,その原因を,消化管運動を含めても十分に説明できない病態であり,しかも患者は症状の治療を必要としている状態にあるものと定義されている1)。
現在では,RomeⅢが診断基準であり1),その主たる疾患は,機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)とIBSである。FD(機能性上腹部愁訴,機能性胃腸症)の診断基準は,必須条件として①つらいと感じる食後のもたれ感,②早期飽満感,③心窩部痛,④心窩部灼熱感,が1つ以上あること,および症状の原因となりそうな器質的疾患が確認できないこと(上部内視鏡検査を含む),かつ6カ月以上前から症状があり,最近3カ月間は前述の基準を満たしていることである。
IBSの診断基準は,6カ月以上前から症状があり,最近3カ月間,1カ月で少なくとも3日以上にわたって腹痛や腹部不快感が繰り返し起こり,①排便によって症状が軽減する,②発症時に排便頻度の変化がある,③発症時に便形状(外観)の変化がある,の2つ以上を満たすことである。
RomeⅡ/Ⅲは,精神疾患の診断と分類に用いる精神障害の診断と統計マニュアル(diagnostic and statistical manual of mental disorders:DSM)をモデルにして,消化器症状によって診断・分類するためにつくられた診断基準である。脳と消化管との関連性は,脳腸相関と呼ばれている。脳腸相関により,不安・恐怖などが器質的・機能的消化管疾患を生じさせ,器質的・機能的消化管疾患が不安・うつなどを生じさせる。
臨床的に器質的消化管疾患は,確実に診断し,的確な治療を行えば,腹部症状が消失するとともに,精神的・心的症状も軽減していく。精神的・心的症状により器質的消化管疾患が生じている場合,器質的疾患による腹部症状は,器質的疾患の治療によって軽快するが,再発する可能性もある。しかし,精神的・心的症状により機能的消化管疾患が生じている場合,機能的消化管疾患により精神的・心的症状が生じている場合は,その機能的消化管疾患の診断は困難である。それらを診断するために,RomeⅢの診断基準が用いられている1)。
残り3,248文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する