今年4月、厚生労働省の「循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制のあり方に関するワーキンググループ」(WG)が報告書を出した。心不全など循環器疾患の患者に対する緩和ケアの提供体制はどうあるべきなのか。同WG座長を務めた広島大学大学院医歯薬保健研究科循環器内科学教授の木原康樹氏に聞いた。
これまで緩和医療は主に、がんの患者さんの終末期を支えるケアとして導入され普及してきました。ところが、2014年に世界保健機関(WHO)が、人生の最終段階に緩和ケアを必要とする患者さんの割合が最も多いのは循環器疾患で、2番目ががんであることを報告し、循環器疾患の患者さんにも緩和ケアが必要であるとの認識が高まりました。
日本でも、心不全の患者数は約120万人と推計され、がん(約100万人)より多いんですね。すでに高齢社会に突入しているわが国において、実際に、苦痛に直面している心不全の患者さんの割合は激増しています。厚生労働省でWGが発足した背景には、日本の循環器領域での緩和ケアをどうするか、体制整備が急務になってきたということがあります。
非がん領域で緩和ケアの対象になるのは循環器疾患だけではありません。慢性閉塞性肺疾患(COPD)、血液疾患、慢性腎臓病、小児の先天性疾患の患者さんなどもさまざまな苦痛を抱えています。今回は循環器疾患に絞って議論を進めましたが、他の非がん領域の緩和ケアにも応用できると考えています。
一方、がん領域では「診断時からの緩和ケア」が進められていますが、患者団体の方々からは、がんの患者さんたちが緩和医療の恩恵を十分に受けられていないとの指摘があります。日本緩和医療学会を中心に、がん等の診療に携わる医師等を対象に緩和ケア研修会を実施してきましたが、がん領域も含めて、これまでの緩和ケア施策のあり方を見直す時期に来ているという側面もあります。