(東京都 S)
【内視鏡検査により診断された胃炎に対してHp感染を確認した上で除菌を施行する】
2013年2月21日の厚生労働省保険局医療課長通知(保医発0221第31号)で胃炎に対するヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori:Hp)検査および除菌治療が認められました。ただし,上部消化管内視鏡検査(内視鏡)で診断した胃炎という前提条件がありますので,内視鏡は必須です。「胃が痛い」や「胃が重い」などの症状だけや胃X線検査で慢性胃炎と診断されたものは対象ではありません。
一般的には,心窩部痛などで受診した患者に対して内視鏡を行います。胃癌をはじめとする悪性腫瘍があれば,その治療を行います。また,胃潰瘍や十二指腸潰瘍があれば,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)を中心とした内服治療を行い,その後,潰瘍再発予防を第一目的としてHp除菌治療を実施すべきでしょう。悪性腫瘍や消化性潰瘍などの疾患がなく,Hp感染に伴うと思われる萎縮性胃炎・皺襞腫大型胃炎・鳥肌胃炎を認めたならば,生検禁忌でなければ,その場で迅速ウレアーゼ試験を行い,陽性を確認した上でHp除菌治療を行うのがよいでしょう。
胃炎の確認については,保険診療で行った内視鏡だけではなく,検診や人間ドックなどで行った内視鏡も認められています。もちろん,レセプト提出時に内視鏡を実施した検診機関名や実施日,所見を症状詳記として付けることが望まれます。そして,Hp感染診断が未実施ならば,尿素呼気試験や便中Hp抗原検査でHp現感染を確認した上で一次除菌治療薬を処方します。
先行する内視鏡の実施時期については,日本消化器病学会のQ&Aでは半年以内とされていますが,もともと検診は1年に1回の検査が勧められていますので,1年以内ならばよいのではないかという意見もあります。検診や人間ドックの胃X線検査で胃癌が疑われた場合や胃癌を除外する必要があると判断された場合には,精査として内視鏡が必要になります。また,Hp感染に伴う慢性胃炎が疑われる場合も受診者に通知する検診機関などが増えていますので,それをきっかけとして内視鏡を実施するのもよいでしょう。
さらに,血液検査による胃癌リスク層別化検査(ABC分類)も認知されるようになっています。この検査で胃癌リスクがあると判断された場合は内視鏡を行い,胃癌などの病変がないこと,Hp現感染を示唆する胃炎があることを確認する必要があります。
クラリスロマイシン耐性菌の増加により,従来のPPIを用いた一次除菌成功率が低下していましたが,カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(potassium-competitive acid blocker:P-CAB)の登場で約90%が除菌できるようになっており,同剤を選択する場合が多くなっています。
いくら一次除菌成功率が高くても除菌判定は必須です。確実に除菌判定を受けてもらうためには,除菌薬を処方する際に除菌判定日を決めて検査を予約すべきと考えています。除菌判定日は除菌薬内服終了後4週以降となっていますが,遅ければ遅いほど除菌判定の精度が高くなります1)。とは言っても,半年後に設定したのであれば,除菌判定を受けない患者が増えると思いますので,2カ月後くらいに実施することが多くなっています。その検査法としては,“面診断”である尿素呼気試験,あるいは,便中Hp抗原検査で判定すべきです。
ところで,2013年にHp診療の保険適用が拡大されてから,胃癌発生予防を期待して除菌治療を希望する人が非常に多くなってきています。その中には「ピロリ菌に感染していると胃癌リスクが非常に高くなるが,除菌治療を受けると胃癌にはならない」と誤解している人も少なからず認められるように思います。胃癌や消化性潰瘍のないHp胃炎のみに対する除菌治療の胃癌発生予防効果に関するメタアナリシス2)によると,有意差は認められたものの,オッズ比は0.66(95%信頼区間:0.46~0.95)と限定的であり,除菌治療への過信は禁物です。
除菌後の人と未感染の人では胃癌リスクは明らかに異なり,除菌後の人についてはサーベイランスが重要です。除菌成功によりびまん性発赤や白濁粘液の付着が改善するため,1年後の内視鏡で発見される胃癌もあります。また,萎縮が進展した例では10年以上経過後にも胃癌が発見されていますので,長期間にわたるサーベイランスが望まれます。
【文献】
1) 徳永健吾, 他:日消誌. 2000;97(9):1143-50.
2) Ford AC, et al:BMJ. 2014;348:g3174.
【回答者】
井上和彦 淳風会健康管理センターセンター長