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【Breakthrough 医薬品研究開発の舞台裏(特別編)】医学会総会シンポ「日本の臨床研究は、なぜ遅れたのか?」詳報―「待っているだけで『お金がない』は誰でも言える。改革したところに研究費は来る」

No.4961 (2019年05月25日発行) P.14

登録日: 2019-05-24

最終更新日: 2019-05-24

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欧米に比べ大きく後れをとってきた日本の臨床研究。そこにはどのような背景・要因があり、世界において日本の臨床研究の存在感を高めるには何が必要なのか─。4月下旬に名古屋国際会議場で開かれた日本医学会総会で、こうした問題意識を持つ医学者、臨床研究の専門家によるシンポジウムが行われた。
医薬品研究開発の舞台裏に迫る本シリーズの特別編として、今回は本シンポの模様を紹介し、日本の臨床研究はどのような構造的問題を抱えているのか、日本発の医薬品・技術が世界の医療に貢献する状況をつくるために取り組むべき課題は何かを考えたい。

 

世界のトップジャーナルに掲載される臨床研究論文数の国際比較で日本の順位の低迷が指摘される中、ノバルティスファーマの「ディオバン」、武田薬品工業の「ブロプレス」など高血圧治療薬(ARB)の臨床研究を巡る不祥事(いわゆるディオバン事件、CASE-J事件など)が立て続けに起こり、日本の臨床研究は先進国から大きく後れをとる事態に陥っている。

臨床研究を医師のミッションの中核に

医学会総会の1日目(4月27日)に「日本の臨床研究は、なぜ遅れたのか?」をテーマに行われたシンポで浜松医科大理事・副学長(臨床薬理学)の渡邉裕司氏は、ディオバン事件の本質は「臨床試験を理解しない研究者により研究が実施されたこと」にあるとし、「日本の中で臨床研究の意義や役割、方法などが教育されてこなかったことが大きな要因」と指摘した。

渡邉氏は、日本の医学部に臨床薬理学講座が設置されているところはまだ少ないが、欧米では臨床薬理学は「ごく当たり前に存在する講座」であり、米国の病院の臨床医らは診療や教育よりも研究に多くの時間を費やしていることを紹介。「日本の中で(臨床医の)先生にミッションは何かと尋ねると、おそらく大半は日常診療と答え、臨床試験は二の次という状況ではないか。私たちのミッションの重要な部分に臨床試験、臨床研究があるという意識付けを行わない限り、日本の臨床研究は前に進まない」と強調した。

渡邉氏は「医薬品をどのように患者に使うかというのはあくまでも“消費”であり、しかも使う薬はほとんど輸入製品。この状況を変え、日本発の医薬品や医療技術が世界の医療に貢献するという目的を実現するには、医学教育の中に臨床試験の重要性を織り込むことが必要」と重ねて訴えた。

大学病院・ナショナルセンターの改革を

一方、自治医大学長の永井良三氏(東大名誉教授)は、第二次大戦後、欧米は医師の倫理や臨床研究のガイドラインを整備したのに対し、日本は対応が遅れ、新GCPが施行され、治験が国際基準に従うようになった後も、人材、体制、研究費などが不十分な状態が続いているとし、医薬品開発のための臨床研究を含め日本の臨床研究全般が遅れてきた歴史的背景を説明。

ナショナルセンター(国立高度専門医療研究センター)や大学病院のあり方にも強い問題意識を示し、「最近、(厚生労働省の)ナショナルセンターの在り方検討会(=国立高度専門医療研究センターの今後の在り方検討会)の座長を務め、その中で各ナショナルセンターの研究所を一つにしたらどうかと提案したが、強い抵抗にあった」として、研究所の統合などナショナルセンターの改革が必要との持論を展開。

大学病院についても「東大の場合、大学院があり、医学部があり、その医学部の附属病院ということになっているため、なかなか自主的に動けず、予算も医学部と病院合わせて500億円程度しかない。予算で比較すると、東大に比べソウル大学は約3倍、オランダ(のエラスムスMC)は約4倍、ハーバードは20倍近く、スタンフォードは約10倍と規模が全く違う」と、各国大学病院のデータ(表)を紹介しつつ、大学病院を研究中心病院として独立させ、国から研究費が投入される仕組みをつくるべきと訴えた。

大学病院を独立させ、オープンな場に

シンポでは、鈴鹿医療科学大学長の豊田長康氏(三重大元学長)や京大医療疫学教授の福原俊一氏も交えたディスカッションが行われ、その中で永井氏は、「赤字国債(の残高)が増え続ける中で研究費をどのようにして増やすか。待っているだけで何もせず『お金がない』というのは誰でも言える。改革したところに(研究費は)来る」とあらためて問題提起。

豊田氏は、大学病院を独立させるべきとした永井氏の主張に賛成し、「大学病院が医学部附属である必要はない。大学病院を大学の外に置き、ある程度柔軟性をもって運営させて、そこに研究・教育的な機能も入れるというのはすばらしいアイデアだ。臨床研究は(大学病院のような)プラクティスが行われている場所で行うのが一番いい」と述べた。

永井氏はさらに、「医学部を出た人だけが研究をする必要はない。(大学病院は)もっとオープンであるべきだ。医学、工学、薬学、農学などいろいろな研究者がそこに入ってこられるようにする必要がある」として、大学病院を開かれた場にすることも提案した。

このほか福原氏は、日本に一番欠けているのは「研究をデザインして計画するトレーニング」と指摘し、基礎に進む学生も臨床に進む学生も、医学部教育の中でそのようなトレーニングを受けるべきだと訴えた。

シンポを通じて、日本の臨床研究のプレゼンスを高めるには、医学部での教育、大学病院やナショナルセンターの体制などを抜本的に見直し、臨床医が診療のみならず未来の医療のために研究にも専念できる環境をつくり出すことが必要との認識が共有された。

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