【過敏性腸症候群(IBS)と機能性ディスペプシア(FD)はどんな病気になったのか?】
2014年,日本消化器病学会は関連学会と協力し,機能性消化管疾患(「障害」も可)の二大疾患である,過敏性腸症候群(IBS)と機能性ディスペプシア(FD)に関する診療ガイドラインを公刊した。このガイドラインに大きな影響を与えたのが,国際統一基準を提唱し続けてきたROME委員会によるROME Ⅲである。1988年にROME Ⅰが発刊され,改訂を重ね,現在のROME Ⅳに至る。
ROME ⅢからROME Ⅳへの興味深い変更・強調点は,脳と腸(胃)の相互作用のエビデンスが蓄積され,「脳腸相関」を全面的にアピールした点である。その上で,運動障害や内臓過敏性,腸内細菌叢の変化,粘膜や免疫・内分泌機能の変化などの組み合わせに力点が置かれている。
IBSを例にとれば,腹痛という主観的体験に重点が置かれ,それと便の形状や頻度がどう関連するかを診断基準とした。また,痛みの有無によって,機能性便秘や機能性下痢を区別し,IBSの便秘型・下痢型・混合型の病態と関連し合う枠組みを提供する。
FDでは,胃適応性弛緩障害,胃排出障害,内臓知覚過敏などに加え,十二指腸における好酸球増多が早期飽満感に関連することが報告され,微細な炎症が粘膜・神経に与える影響が注目されている。酸分泌抑制薬やHelicobacter pyloriの除菌効果,プロカイネティクスの有効性も示され,多元的病態に対する様々な治療方法が提案されている。
腸管という末梢組織,脳という中枢神経と,その中間に位置する神経・ホルモン・免疫系を介した複雑なネットワーク障害こそ,機能性消化管障害の本態だと,ROME Ⅳは訴える。
【解説】
山根 朗 関西医科大学心療内科