(東京都 K)
【機内・車内の気圧低下に伴い,クリップ脱落,遅発性穿孔,後出血のリスクが高まる】
ポリープ切除後の生活指導については,「消化器内視鏡ハンドブック」(第1版)1)において,後出血の予防目的に運動や飲酒を1週間程度制限する,また遅発性穿孔の生じるきっかけとして術後排便時のいきみ,飲酒,運動が関与することをあらかじめ説明するなどの注意点が明記されていますが,新幹線や飛行機などの移動制限については明記されていません。
飛行機内は常に約0.8気圧に保たれており,大気圧より低い状態です。ボイルの法則から気体の体積は地上と比べて約1.25倍に増加することになり,いきみによる腸管内圧上昇と同様の事象が起こっていることになります。それに伴い,縫縮クリップの脱落,遅発性穿孔,後出血のリスクが上昇すると考えられます。また新幹線などの高速鉄道においてもトンネル内走行時に車内の気圧が低下することから,その影響は短時間と予想されますが,同様のリスクが生ずる可能性があります。
後出血は治療後約1週間までに出現することが多く,遅発性穿孔の大部分は治療後24時間以内に発症すると報告されています。また,長距離フライトなどで緊急事態が生じた際は適切な治療が行えないこともあります。以上より,術後1~2週間以内の飛行機や新幹線の移動制限は妥当であると考えます。
炭酸ガスは空気と比べ生体内での排出・吸収が速く2),大腸内視鏡検査時に炭酸ガスを使用した群では検査終了30分後の腹部X線でほぼ遺残ガスを認めず,空気使用群と比べて検査後の腸管過伸展が少なかったとの報告があります3)。
外径4~9mmの大腸ポリープに対するcold snare polypectomy(CSP)とhot snare polypectomy(HSP)の多施設共同ランダム化比較試験において,HSP群で0.5%に後出血を認めたが,CSP群では1例も認めなかったと報告されています4)。また,ポリープ切除時の過通電が遅発性穿孔の原因となることが知られています。
以上のことから炭酸ガス使用下での非通電切除は飛行機や新幹線移動における気圧低下に伴う合併症のリスクを低減させる可能性がありますが,エビデンスとなるデータはなく,今後の検討課題と言えます。
【文献】
1) 日本消化器内視鏡学会卒後教育委員会, 編:消化器内視鏡ハンドブック. 日本メディカルセンター, 2012.
2) 鵜川邦夫, 他:Prog Dig Endosc. 2007;71(2):42-5.
3) Hussein AM, et al:Gastrointest Endosc. 1984; 30(2):68-70.
4) Kawamura T, et al:Gut. 2018;67(11):1950-7.
【回答者】
大森崇史 藤田医科大学消化管内科
大宮直木 藤田医科大学消化管内科教授