先天性甲状腺機能低下症(congenital hypothyroidism:CH)はクレチン症とも言われ,新生児マススクリーニングの対象疾患である。甲状腺ホルモンは胎児期~乳幼児期の神経発達に不可欠なため,その不足は不可逆的な知能障害を起こす。また,成長障害も生じる。CHの頻度は4000人に1人であると言われている。
CHは障害部位により,甲状腺自体の障害を原発性CH,間脳下垂体の障害を中枢性CH,ホルモンの不応症を末梢性CHと分類する。原発性CHでは,甲状腺の形成異常(無・低形成,異所性甲状腺)やホルモンの合成障害が多い。
CHには重症度により,一生治療が必要な永続性CHと,一過性CH,サブクリニカルなCHが存在する。一過性CHの原因として,出産時の消毒液による急性のヨード過剰症,バセドウ病母体の児などがある。
新生児期のCHの臨床症状のチェックリストは,①黄疸の遷延,②便秘,③臍ヘルニア,④体重増加不良,⑤皮膚乾燥,⑥不活発・傾眠,⑦巨舌,⑧嗄声,⑨手足冷感,⑩浮腫,⑪小泉門開大,である。
新生児マススクリーニング(日齢4~6に採血)において,TSHが15~30mIU/Lのカットオフ値を上回った場合は即精密検査となり,各自治体で定められた医療機関を受診する。TSHが7.5~15mIU/Lの場合は2回目採血を初回医療機関に依頼し,それがカットオフ値を上回った場合は精密検査対象者とする。
中枢性CHではTSHが低値でありTSHのみ測定するマススクリーニングでは発見はできないため,今後TSHとFT4を同時に測定することが望まれる。
低出生体重児やNICU入院中の新生児では,マススクリーニング,採血日齢が遅れることもあるが,可能な限り日齢4~6に行うことが望まれる。1回目の採血が正常であっても,2回目採血を①生後1カ月,②体重が2500gに達した時期,③医療施設を退院する時期,のいずれか早い時期に行うことを推奨する。2回目の採血でTSHが遅発上昇した場合は,精密検査対象とする。
大切なことは,精密検査時TSHの異常高値を認めた場合は,原因にかかわらず,治療がまず優先されることである。
①チェックリスト≧2点または超音波検査で甲状腺が同定できないまたは甲状腺腫が認められた場合は直ちに治療を開始する,②TSH≧30mIU/LまたはTSH 15~30mIU/LかつFT4低値(1.5ng/mL未満)の場合は,チェックリストの症状がなくても直ちに治療開始する,③濾紙血TSH≧30 mIU/L,あるいはTSH<30mIU/Lの症例で,チェックリストの症状が1つ以上,または大腿骨遠位端骨核未出現(5mm以下)の場合には直ちに治療開始を考慮する。
TSHが10~15mIU/Lで,臨床症状がなく血中FT4が正常範囲の場合,再度甲状腺機能検査を行い,生後3~4週を過ぎてもTSH≧10mIU/Lの場合は治療を考慮する。
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