マロリー・ワイス症候群(Mallory-Weiss syndrome:MWS)とは,激しい嘔吐に伴う急激な腹圧および胃内圧の上昇により胃食道接合部付近の粘膜に裂創が生じ,出血をきたすことで吐血・下血を呈する疾患である。MWSの発症に関連する要因のうち,最も多いものは飲酒であり,妊娠悪阻,咳嗽,吃逆,出産や排便時のいきみなどでも発症することがある。また,上部消化管内視鏡検査中に医原性に発症することもある。
複数回嘔吐を繰り返した後に新鮮血の吐血を認めることが多い。腹痛や背部痛などの症状は伴わないことが多く,あっても軽度である。強い症状を訴える場合は,他疾患の合併や特発性食道破裂などを考慮する。大量出血に至ることは少ない。
上部消化管内視鏡検査で,胃食道接合部付近の粘膜に縦走する裂創を認める。小弯に発生することが最も多いとされ,同部位の観察を十分に行う必要がある。粘膜筋板の断裂を伴う場合は紡錘状(図),伴わない場合は線状の裂創となる。通常は貧血をきたすほどの出血は少ないが,粘膜筋板の断裂を伴う(紡錘状)症例では,大量出血をきたすことがある。
内視鏡検査を行ったときには既に自然に止血している場合も多い。内視鏡的止血術の適応については,改変Forrest分類に準ずる1)。
薬物治療としては酸分泌抑制薬〔カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB),プロトンポンプ阻害薬(PPI)〕を投与する1)。粘膜保護薬としてアルギン酸ナトリウム液(アルロイドG®内用液)などを投与する場合もある。
内視鏡検査時の嘔吐反射により裂傷を悪化させ,出血を助長することがあるため,適宜鎮静薬などを使用し,必要以上に長時間にわたって内視鏡検査を行わないことが重要である。また,過送気にならないよう注意し,可能であれば炭酸ガス送気による内視鏡検査が望ましい。
内視鏡検査の禁忌に準ずる。重度の意識障害や低酸素血症などは,内視鏡検査そのものが禁忌である。出血性ショックを呈している症例では,ショックの治療を優先する。
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