深部静脈(主に下肢)に起こる血栓閉塞で,下肢腫脹,下肢痛,発赤,を主徴とする。血栓が塞栓化して重篤な肺血栓塞栓症を発症することがある。
病歴・所見から臨床的確率を計算し,D-dimerで除外診断を行う。深部静脈血栓症を否定できない患者に下肢静脈超音波検査法〔不可能な場合はCTあるいはMR静脈造影(magnetic resonance venography:MRV)〕にて確定診断を行う。
膝窩静脈より中枢にできた深部静脈血栓症の治療は,抗凝固療法,圧迫療法が中心となる。下腿に限局した深部静脈血栓症に対する抗凝固療法の有効性は明らかでなく,全例が抗凝固療法の適応ではない1)。急性期下肢症状の軽減,肺血栓塞栓症の発症予防〔あるいは既に合併している場合は同時治療となる。下腿潰瘍・疼痛・腫脹など慢性期の下肢合併症(血栓症後症候群)の予防と軽減〕が治療目的である。肺血栓塞栓症の症侯があるときの診断・治療は肺血栓塞栓症に準じる1)。
深部静脈血栓症の投薬は,簡便で外来治療が可能で出血合併症が少ないとされる直接経口抗凝固薬(direct oral anti-coagulants:DOAC)を基本とする。腎障害などでDOACが使用できない場合は,未分画ヘパリンとワルファリンを用いた抗凝固療法を施行する。稀であるが,下肢症状が重症で疼痛が激しく動脈虚血などを伴う場合は,カテーテル治療や外科的静脈血栓摘除術を行う。
抗凝固療法の継続期間はまず3カ月までとし,それ以降の継続を行う延長治療は患者の出血などのリスクと再発防止効果のベネフィットを検討して行う。外科手術周術期,ホルモン剤,カテーテル留置など,一時的な誘因で発症した場合は再発が少なく,抗凝固療法は3カ月とする。誘因のはっきりしない非誘発性の場合は,再発リスクが高いので3カ月以上の抗凝固療法を検討するが,延長治療では出血リスクも上がるので,慎重にリスク・ベネフィットを考慮する。再発性深部静脈血栓症例,活動性がん患者の場合は,再発リスクが高いので延長治療を行う。ただし,活動性がん患者の場合は出血リスクも高く,長期生命予後がない場合もあるので,頻繁に抗凝固療法継続のリスク・ベネフィットを確認する。なお,活動性がん患者には治療したがんの既往患者は含まれない。
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