胃癌は東アジアに多い疾患で,ピロリ菌との関連が強い。長期感染による胃粘膜の変化(慢性胃炎→萎縮→腸上皮化生)の過程で発癌する。胃癌の年齢階級別死亡率は,男女ともに1965年から減少傾向を続けている。現在は高齢者に多い疾患であるが,ピロリ感染率低下,慢性胃炎に対するピロリ除菌療法によって罹患率も欧米並みになる時代は近い。
早期胃癌の診断は,内視鏡検査によって存在診断から質的診断,量的診断へと至る。存在診断のための最重要事項は,ピロリ菌感染(既感染も含む)と未感染を見分けることである。異常所見を見つけたらがんかどうかの質的診断を行い,病変の大きさ,深達度および組織型から内視鏡治療の適応を判断する。
治療法には,内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)がある。ESDには高度な技術が求められ,治療時間も長く偶発症も多い。よって,小さな病変や部位によっては安価・安全・簡便という観点からEMRも選択肢となる。実際,胃体中部から穹窿部の大弯で1cm程度の病変であれば,同等の根治性を保った上で,圧倒的に短い治療時間ですむのがEMRである。また,時間短縮には周囲切開後にスネアで切除する,いわゆるhybrid ESDも有用である。さらに,どの部位においてもESDを施行するのであれば,トラクション法は今や必須である。
一方で,内視鏡治療の適応であっても技術的に困難と判断した場合は,先進施設にゆだねるか,外科治療を検討する。また,治療中であってもこれ以上続けると危ないと判断した場合は,中止することも選択肢である。“ルビコン川”を渡るかの判断を,冷静に勇気を持って決断できるかどうかが医師としての重要な資質である。
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