閉経の前後5年間を更年期と言い,この期間に現れる多彩な症状の中で,器質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼ぶ。更年期症状の中で日常生活に支障をきたすものが更年期障害である。卵巣機能(エストロゲン)の低下が本態で,これに加齢に伴う身体的変化,精神・心理的な要因,社会環境的な因子などが複合的に影響することにより症状が発現すると考えられる。
更年期の女性が多彩な症状を訴えて受診した場合は本疾患を疑うが,明確な診断基準は存在しない。更年期症状は,①顔のほてり・のぼせ・発汗などの血管運動症状,②易疲労感・めまい・動悸・頭痛・肩こり・腰痛・関節痛・冷えなどの身体症状,③不眠・イライラ・不安感・抑うつなどの精神症状からなる。症状が器質的疾患によっても引き起こされるので鑑別診断が重要である。甲状腺機能異常(亢進症・低下症ともに)との鑑別には甲状腺腫大の有無・甲状腺機能評価を行い,うつを中心とした気分障害などとの鑑別には精神科専門医との連携が必要である。ただし,卵巣機能の低下の評価は月経周期の変動で推定して判断すべきである。エストラジオールや卵胞刺激ホルモン(follicle stimulating hormone:FSH)は閉経前後にも変動するため,診断上必ずしも有用ではない。
欠乏したエストロゲンを補うホルモン補充療法(hormone replacement therapy:HRT)が第一選択である。特にホットフラッシュなどの血管運動症状への有効性は非常に高い。懸念されてきたHRTによる乳癌発症リスクについては,肥満などの生活習慣に関連した因子と同等以下であるとのコンセンサスが得られている。子宮のない女性に対してはエストロゲン単独投与を行う。子宮を有する女性に関しては,黄体ホルモンの併用は子宮内膜増殖症発症予防のために必須である。詳細に関してはガイドライン1)を参照頂きたい。
残り1,612文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する