わが国では食道癌の90%が扁平上皮癌であり,60~70歳代の男性に多いことが報告されている1)。扁平上皮癌の危険因子は喫煙,飲酒である。欧米においてはGERD(gastroesophageal reflux disease)による下部食道の持続的炎症に起因するバレット上皮がその発生母地として知られている腺癌が主体であり,わが国と異なる。わが国の規約,ガイドラインのメインは扁平上皮癌のエビデンスに基づき作成されている。
壁深達度が粘膜内にとどまる食道癌を早期食道癌(early carcinoma of the esophagus)と呼ぶ。リンパ節転移の有無は問わない。がん腫の壁深達度が粘膜下層にとどまるものを表在癌(superficial carcinoma)と呼ぶ。一般的に表在型食道癌の深達度亜分類はM1:T1a-EP,M2:T1a-LPM,M3:T1a-MM,SM1:T1b-SM1,SM2:T1b-SM2,SM3:T1b-SM3と決められており,粘膜筋板から200μm以内にとどまる病変をT1b-SM1としている1)。200μm以深では50%程度の転移率があるため,表在型癌であっても進行癌に準じて治療を行う2)。
食道癌治療のアルゴリズムが「食道癌診療ガイドライン2017年版」に提示されている2)。扁平上皮癌Stage 0:T1a-EP/LPM病変のリンパ節転移はきわめて稀であり,内視鏡治療の適応である。内視鏡治療後の狭窄を考慮し非全周性(3/4周未満)は内視鏡治療で根治が得られるため,絶対適応と推奨されている。T1a-MMのリンパ節転移頻度は0~4.2%,さらに脈管侵襲陽性の内視鏡切除例では0~8.1%,手術標本では18.2~41.2%と報告されている2)。EP/LPMに比べると転移リスクが高いことがわかる。
一方で,腺癌はわが国では少なく,現状では食道扁平上皮癌に準じて治療が行われるが2),最近わが国から食道腺癌のリンパ節転移率に関する後ろ向き検討が報告された。大きさが3cm以下,脈管侵襲なし,SM1(500μm)までリンパ節転移がなく,腺癌では扁平上皮癌とは転移リスクが異なることが示唆された3)。
早期食道扁平上皮癌発見のポイントはアルコール多飲,喫煙のハイリスク群におけるスクリーニング検査の重要性である。ルゴール染色によるルゴール不染域が発見容易であるがルゴールは刺激性が強いため,まずは発赤調変化を拾い上げ,IEE(NBIなど)で茶褐色状のスポットを発見するのがよい。
内視鏡治療の適応はEP/LPMであるため,深達度の評価を行う。通常視が基本である。通常視で丈の高い隆起(0-Ⅰ)や潰瘍(0-Ⅲ)を呈する腫瘍は,SM以深癌で内視鏡治療の適応はない。通常視で0-Ⅱb,ルゴール染色時によくみられる畳目サインがあればEP/LPMと診断できる。次に拡大内視鏡を行う。日本食道学会分類A,B1血管(ドット状,らせん状,糸くず状などのループ形態を示し,血管径は20~30μm程度)であれば,おおむねT1a-EP/LPMに相当する。
腺癌では,ルゴール染色による発見や血管分類による深達度診断はできない。バレット食道が3cm以下のSSBE(short segment Barrett’s esophagus)と,全周で3cm以上のLS BE(long segment Barrett’s esophagus)由来のものがあるが,わが国ではSSBE由来の腺癌が多い。隆起型で発赤調の病変が多く,組織型も分化型腺癌が多い。SSBE由来腺癌は食道胃接合部の右側壁に多いことが知られている。肉眼型では0-Ⅱa+Ⅱc型をとるものはSM癌が多い。
食道扁平上皮癌の内視鏡治療適応は肉眼型,拡大内視鏡所見,超音波内視鏡でおおむね決定できる。
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