小腸は解剖学的には十二指腸,空腸,回腸からなるが,臨床現場においては,通常の上下部消化管内視鏡での検査・治療が困難な,十二指腸乳頭~回腸末端の範囲からの出血(mid gastrointestinal bleeding:MGIB)を小腸出血として扱うことが多い。小腸出血は全消化管出血の約5%を占める。血管性病変,炎症性病変,腫瘍性病変,メッケル憩室,静脈瘤などが原因となる。診断には主にCT,カプセル内視鏡(capsule endoscopy:CE),バルーン小腸内視鏡(balloon-assisted enteroscopy:BAE)が用いられ,診断がつけばそれぞれの病変に応じた治療を選択する。
上下部消化管内視鏡検査を行っても原因不明の消化管出血(obscure gastrointestinal bleeding:OGIB)の多くをMG IBが占める。OGIBの10~15%では胃や大腸に出血源がみつかるため,場合によっては上下部消化管内視鏡の再検査を検討する。
OGIBには下血・血便などの顕性出血を伴うovert OGIBと,顕性出血を伴わない慢性鉄欠乏性貧血を呈するoccult OGIBがある。全男性と閉経後女性の鉄欠乏性貧血では,消化管出血を疑う必要があり,上下部消化管内視鏡で診断できなければoccult OGIBとして精査する。
吐血の有無,便の色・性状・回数,腹部症状,既往歴・既往症,鼻出血の有無,家族歴,使用薬剤(NSAIDs,抗血栓薬等)などの情報から病変部位・種類を推定して診断戦略をたてる。
背景疾患として循環器疾患・肝疾患・腎疾患等を有する場合と,高齢者では血管性病変の頻度が高くなる。若年者では,メッケル憩室,クローン病の頻度が高くなる。赤血球のmean cell volume(MCV)が低ければ慢性出血が疑われる。また,出血時のBUN/Cr比が高ければ,近位小腸からの出血が疑われる。
初期検査としては胸腹部dynamic CTが推奨されている1)。出血中か出血直後のCTでは,造影剤の血管外漏出(extravasation)や,単純CTでの高輝度腸液が出血部位推定の助けとなる。自然止血後のCTでは,腸管洗浄剤等を陰性造影剤として服用して撮影し,CT enterographyとする。
CTで,extravasation,腫瘤,壁肥厚,狭窄などが認められれば,BAEを選択する。有意所見がなければ,消化管閉塞症状などの禁忌がないことを確認の上,CEを選択する。CEは微小病変の検出に優れるが,通過の速い十二指腸〜上部空腸では偽陰性となりやすい。
腫瘍性病変の検出について,CTは微小病変と上皮性腫瘍,CEは粘膜下腫瘍の感度が低いが,両者の併用で腫瘍性病変の多くは検出可能である。逆に言えば,CTとCEの片方だけでは不十分である。しかしメッケル憩室は,CTでもCEでも検出しにくく,メッケルシンチグラフィーも成人では感度が低いため,比較的若年のOGIBでは経肛門BAEを行う。また,CTとCEで有意所見がなくても,臨床経過が不良の場合はBAEを検討する。潰瘍性病変では,NSAIDs起因性小腸炎,クローン病,ベーチェット病,サイトメガロウイルス腸炎,bacterial overgrowth syndrome,SLCO2A1関連慢性腸炎(CEAS),腸結核などが鑑別に挙がる。
BAEで腫瘍性病変を認めれば生検が可能であるが,消化管間質腫瘍(GIST)や血管性腫瘍については生検後出血のリスクがあるため,治療方針が決まっていれば行わない。
残り960文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する