クローン病(Crohn’s disease:CD)は,口から肛門までの全消化管に発生しうる原因不明の免疫異常が関与した肉芽腫性炎症性腸疾患である1)。主に若年者に発症し,小腸・大腸を中心に浮腫や潰瘍を認め,下痢,血便,腹痛などの症状を呈する。再燃・寛解を繰り返す過程で,慢性炎症が長期化すると,腸管の狭窄や瘻孔,膿瘍などの合併症をきたし,生活の質を著しく低下させる。また,消化管以外にも貧血,関節炎,虹彩炎,皮膚病変などの合併症を認めるため,全身性疾患としての対応が必要である1)。CDの病型や臨床経過,現在の病態や活動性を適切に評価して,治療戦略をたてることが重要である。
若年者に,慢性的に続く腹痛,下痢,発熱,体重減少,痔瘻をはじめとした肛門病変などを認めた場合はCDを疑い,血液検査や画像検査,内視鏡検査などを行う。血液検査では,炎症所見高値,貧血,血小板数増多,赤沈亢進,アルブミン低下などを認める。各種内視鏡検査や消化管造影検査などにより全消化管検査を行い,縦走潰瘍,敷石像などの特徴的な所見の有無を確認するが,典型的所見を欠く場合でも非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め確診となることもあり,積極的に生検を行う。
除外疾患として,潰瘍性大腸炎,腸結核,腸管型ベーチェット病,リンパ濾胞増殖症,薬剤性大腸炎,エルシニア腸炎などがある。
CDは,現在のところ完治させる治療法がないため,病勢をコントロールして寛解導入し,長期間寛解維持をして生活の質を高めることが大切である。CDは多彩な病変を呈する疾患のため,病変範囲から「小腸型」「小腸・大腸型」「大腸型」に分類し,病型から「炎症型」「瘻孔形成型」「狭窄型」2),病勢から「軽症」「中等症」「重症」に分類し,さらに「腸管あるいは腸管外の合併症」の有無を加味し,治療方針の決定を行う。
近年は各種薬剤の登場により内視鏡的な粘膜治癒が可能となり,臨床的寛解に加え粘膜治癒を達成した「完全寛解:deep remission」と,それを長期間継続する「長期間完全寛解:sustained deep remission」という新しい概念が生まれ,治療目標となっている。さらに,治療目標に向かって適切に評価を行い,生物学的製剤などの治療強化を適切な時期に行うように対応することを「treat to target」と呼び,実践すべき治療指針である。
軽症では,5-ASA製剤(ペンタサ®,サラゾピリン®),ブデソニド(ゼンタコート®),栄養療法(エレンタール®)が治療の中心となる。中等症以上では,全身性ステロイド(プレドニン®),TNFα阻害薬(レミケード®,ヒュミラ®)などを検討する。ステロイドで寛解導入後は,免疫調節薬〔イムラン®/アザニン®,ロイケリン®散10%(保険未収載)〕にて寛解維持を行うが,再燃する際にはTNFα阻害薬(レミケード®,ヒュミラ®)やIL-12/23阻害薬(ステラーラ®)の導入を検討する。
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