1 潰瘍性大腸炎(UC)の粘膜治癒とその恩恵
・潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)は完治させることはできないため,これまでは臨床症状を抑えて長期寛解を維持し,手術や大腸癌のリスクを低下させ,生活の質(QOL)を回復させることが治療の目標であった。
・現在,UCでは内視鏡的にも炎症が完全に消失した「粘膜治癒」も治療目標に加わっている。
・「粘膜治癒」は,内視鏡スコアであるMayo endoscopic subscore(MES)の0または1を指す。近年MES 0は,MES 1よりも予後が良いと報告され,めざすべき一段高い治療目標となってきている。
・粘膜治癒を達成すると,再燃率を低下させるだけでなく,入院率,手術率,発がん率も低下させることができる。
2 UCの病型・病態,評価方法と所見
・病型について,基本的には,全大腸炎型,左側大腸炎型,直腸炎型に分類する。また,右側大腸炎型,区域性大腸炎型も存在する。
・臨床的重症度は,排便回数,顕血便,発熱,頻脈,貧血,赤沈またはCRPを評価する。
・UCの評価方法には次のようなものがある。
①大腸内視鏡検査,②組織学的検査,③腹部X線検査,④腹部CT検査,⑤腹部超音波検査,⑥採血検査,⑦各種バイオマーカー(血液検体,便検体,尿検体)
3 炎症評価後の治療法の検討
・UCは,直腸炎型,左側大腸炎型,全大腸炎型と様々な病型があるため,寛解導入療法は,その病変範囲(病型)と臨床的重症度を加味して行う。
・治療の基本は5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤で,最初に試みる治療薬である。
・直腸炎型は,5-ASA製剤の内服・坐剤・注腸を治療の基本とし,効果不十分な場合にはステロイド坐剤・注腸もしくはブデソニド注腸フォーム剤を用い,安易なステロイド全身投与は避ける。
・左側大腸炎型,全大腸炎型の軽症〜中等症では,直腸炎型と同じ治療方針であるが,中等症で炎症反応が強い場合や上記で改善がない場合は,ステロイド(プレドニゾロン)経口投与を行う。
・重症であれば,ステロイド(プレドニゾロン)点滴静注を行う。ステロイドは寛解導入には有効であるが,維持療法には有用ではないため,寛解導入後には寛解維持目的に免疫調節薬〔アザチオプリン(AZA),6-メルカプトプリン(6-MP)〕を使用する。
・ステロイド投与中は安定するが減量に伴って増悪または再燃が起こり,ステロイドが離脱困難な場合を「ステロイド依存例」,また,適正なステロイド量を使用しても1〜2週間以内に明らかな改善が得られない場合を「ステロイド抵抗例」と定義し,難治例として治療を行う。
・ステロイド依存例では,まず免疫調節薬のAZAや6-MPにて維持療法を試みるが,改善しない場合は次の方法が有用である。
血球成分除去療法(GCAP)/カルシニューリン阻害薬(TAC,CsA)/抗TNF-α抗体(IFX,ADA,GLM)/抗IL-12/IL-23p40抗体(UST)/抗α4β7インテグリン抗体(VDZ)/JAK阻害薬(TOF)
・ステロイド抵抗性の中等症例では,次の方法が有用である。
GCAP/TAC経口/IFX点滴静注,ADA皮下注射,GLM皮下注射/UST(初回点滴静注,以後皮下注射)/VDZ点滴静注/TOF経口
・ステロイド抵抗性の重症例では次の方法が有用である。
中等症と同様に,GCAP(週2回が理想)/TAC経口/IFX点滴静注,ADA皮下注射,GLM皮下注射/UST(初回点滴静注,以後皮下注射)/VDZ点滴静注/TOF経口が選択可能であるが,CsA持続静注も有用である。
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)の「粘膜治癒」とは,内視鏡スコアであるMayo endoscopic subscore(MES)の0または1を指す。
UCは完治させることはできないため,これまでは臨床症状を抑えて長期寛解を維持し,手術や大腸癌のリスクを低下させ,生活の質(QOL)を回復させることが治療の目標であった。現在,UCでは,内視鏡的にも炎症が完全に消失した「粘膜治癒」も治療目標に加わっている1)。
近年MES 0はMES 1よりも予後が良いと報告され,一段高いMES 0がめざすべき治療目標となってきている2)。UC治療においても,糖尿病や関節リウマチなどの慢性疾患と同様に明確な治療目標(UCでは「粘膜治癒」)を設定し,その達成の可否で治療強化を行う「Treat to Targetストラテジー」が提唱されている3)。
内視鏡的に炎症が完全に消退したMES 0または1を達成すると,臨床的寛解の維持4),入院5)や外科手術の長期的な回避6),QOLの向上,colitis associated colorectal cancer(CAC)の予防7)につながることが明らかになっている8)。
近年ではMES 1は,軽度ながら炎症が残存しているため,粘膜治癒と定義することに異論が上がり,実際にMES 1でとどまる症例はMES 0を達成した症例に比べ再燃率が高いことも示されている9)ことから,MES 0のみを粘膜治癒にしようとする傾向がある。