臨床的には乳房の腫瘤,硬結,疼痛,張り,乳頭分泌などの症状を主訴とする乳腺良性疾患群である。組織学的には,乳腺の増殖性変化と退行性変化が共存する非腫瘍性良性病変で,乳管過形成,小葉過形成,硬化性腺症,閉塞性腺症,線維症,囊胞,アポクリン化生などの所見がみられる。病変により組織学的変化の種類や組み合わせが様々であるため,画像所見も多彩な像を呈する。乳腺症の原因は,ホルモン(エストロゲン,プロゲステロン)の不均衡で,この不均衡により乳腺の増殖,化生,退行などの変化が生じる。
境界不明瞭な腫瘤,硬結として触知し,しばしば両側性に認める。乳頭分泌の性状は漿液性~血性と様々で,両側性にみられることが多い。
乳腺症に伴う石灰化の多くは,微小円形・淡く不明瞭な石灰化が両側にびまん性にみられることが多い。腫瘤,局所的非対称性陰影,構築の乱れなどの所見を呈することもあり,がんとの鑑別を要する。
複数の組織学的な所見が超音波画像を形成しているため,小腫瘤像,囊胞,低エコー域,構築の乱れ,石灰化などの多様な像を示す。
鑑別疾患として非浸潤性乳管癌,浸潤性乳管癌,浸潤性小葉癌がある。
触診,画像所見から典型的な乳腺症と考えられる場合は,定期的な経過観察を行う。
超音波検査で,小腫瘤像,集簇する小囊胞,限局性の低エコー域,構築の乱れなどの所見を呈する場合は,がんの可能性も否定できないため,針生検での確定診断を考慮する。針生検を施行した場合は,どのような組織学的な所見であるかも確認し,硬化性腺症の場合は乳癌が発生する相対リスクが1.5~2倍とされているため,注意深い経過観察を要する。針生検で診断困難な場合は,外科的切除も検討する。
乳腺症に伴う乳房痛は周期性で,性周期で軽快する場合が多いため,経過観察を第一選択とする。カフェイン,喫煙も乳房痛の原因となるため,摂取制限や禁煙を推奨することもある。対症療法としてNSAIDsなどの消炎鎮痛薬,葛根湯など消炎作用を期待した漢方薬を用いることがある。
触診や画像所見から乳腺症と診断しても,2年程度は3~6カ月ごとの経過観察を行い,経時的変化がなければ年1回の検診(人間ドックや職域検診)へ移行する。ただし,乳腺症は多彩な画像所見を呈するため,検診で要精査となる可能性も高い。その場合は,定期受診による経過観察が推奨される。
【参考文献】
▶ 角田博子, 他, 編著:線維腺腫・乳腺症を極める 乳腺良性疾患クラブに集まれ. 日本医事新報社, 2010.
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