膠原病患者では一般集団に比し肺高血圧症の発症頻度が高く,わが国の報告では,混合性結合組織病(MCTD)で16%,強皮症(SSc)で11.4%,全身性エリテマトーデス(SLE)で9.3%,多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)で1.5%と高率である1)。肺高血圧症は膠原病患者の予後悪化因子であり,早期発見・早期治療が望まれる。
膠原病患者では心エコーで,定期的に肺高血圧症のスクリーニングを行う。
膠原病患者は,肺高血圧症分類5群のすべての群になりうるので,右心カテーテル検査を行って1群の肺動脈性肺高血圧症(PAH)であることを確認する2)。
膠原病性PAHの治療には,膠原病における活動性の血管炎に対する免疫抑制療法と,特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)/遺伝性肺動脈性肺高血圧症(HPAH)の治療に準じた肺血管拡張薬を中心とした治療を考える。
SLEやMCTDに伴う場合は血管炎に起因すると考えられ,疾患活動性を評価した上で,活動性がある場合はステロイドとシクロホスファミドの併用による免疫抑制療法を行う。SScに伴う場合は肺動脈の線維化が病変の主体であり,免疫抑制療法の効果が期待できないことが多い。
利尿薬・酸素投与・貧血の改善などの支持療法とともに,IPAH/HPAHの治療ガイドラインに準じて肺血管拡張薬を使用する2)。肺血管拡張薬には,①一酸化窒素(NO)系のPDE-5阻害薬(シルデナフィル,タダラフィル)と可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬(リオシグアト),②エンドセリン受容体拮抗薬(ボセンタン,アンブリセンタン,マシテンタン),③プロスタサイクリン系〔エポプロステノール(静注),ベラプロスト,トレプロスチニル(静注, 皮下注または吸入),セレキシパグ〕の3系統10薬剤がある。
低リスク例(NYHA/WHO I〜Ⅱ度など)および中リスク軽症例では,上記薬剤の中から合併症などを考慮して内服薬あるいは吸入薬を選択し,重症度や改善度に応じて,3系統の薬剤の単剤あるいは併用で投与する。わが国では以前から初期併用療法が行われており,AMBITION試験においてアンブリセンタンとタダラフィルの初期併用療法の有効性が示されたこともあり3),初期併用療法が勧められている。中リスク重症例(NYHA/WHO Ⅲ度あるいは平均肺動脈圧40mmHgなど)では,プロスタグランジン系薬剤の静注あるいは皮下注剤を優先した初期併用療法を施行する。高リスク例(NYHA/WHO Ⅳ度など)では,エポプロステノール静注を優先させて初期併用療法を施行する。
なお,プロスタグランジン系薬剤の静注・皮下注剤の使用には十分な経験が必要なため,専門施設への紹介が望ましい。
間質性肺疾患を伴い低酸素血症をきたしている症例では,まず酸素療法を考慮する。間質性肺疾患合併肺高血圧症に対する,肺高血圧治療薬の効果は証明されていない。アンブリセンタンは間質性肺炎を悪化させることがあるので注意する。
SScでは肺静脈閉塞性疾患(PVOD)を伴うこともあり,その場合肺血管拡張薬による治療にて肺水腫を起こす危険性がある。酸素飽和度の軽労作時の著明な低下やHRCT(高分解能CT)にてPVODが疑われる場合は,専門施設に相談すべきである。
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