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月経前症候群(PMS)×柴胡加竜骨牡蛎湯[漢方スッキリ方程式(64)]

No.5124 (2022年07月09日発行) P.14

小林範子 (北海道大学病院婦人科講師)

登録日: 2022-07-08

最終更新日: 2022-10-05

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月経前症候群(PMS)は月経前3〜10日の黄体期の間続く精神的あるいは身体的症状で,治療法には非薬物療法と薬物療法がある。薬物療法では,PMS軽症例で症状が限定的な場合は,対症療法的に安定剤,利尿剤,鎮痛剤を用いる。しかし症状が複数みられ多様な場合は,漢方薬が選択肢になる。低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬は身体症状の改善に有効である。欧米ではSSRIが第一選択薬である。

PMSは,症状の多様性から漢方医学的に気血水のいずれにも異常が生じうる病態と考えられる。月経周期の影響という点では,症状の根本は瘀血であり,引き続き生じる気滞により精神症状が出現する。そのため,一般的な治療として,駆瘀血効果に加えて気を巡らす効果のある漢方薬が適している。症状に応じて利水効果を有する生薬も有効である。

本症例は中間~虚証,気血水の観点からは気の異常が主体で,気虚,気滞に加え水滞がみられた。典型的な瘀血の症状がみられなかったのは,ピル服用により月経痛の改善に伴って瘀血症状が改善した可能性が考えられた。精神症状の特徴から心肝の失調があり,心肝火旺の症候に脾気虚を伴った状態と考えられた1)

胸脇苦満があれば柴胡加竜骨牡蛎湯

PMSに適応となる漢方薬として当帰芍薬散加味逍遙散桂枝茯苓丸桃核承気湯半夏厚朴湯苓桂朮甘湯五苓散補中益気湯芍薬甘草湯などがよく知られている。

柴胡加竜骨牡蛎湯小柴胡湯の加減方である柴胡加竜骨牡蛎鉛丹桂枝茯苓大黄湯の略と考えられ,現在は,原典の12種類から鉛丹と大黄を除いた10種類の生薬(柴胡,黄芩,半夏,人参,竜骨,牡蛎,茯苓,桂皮,大棗,生姜)からなっている。構成生薬から考えると,気および胸脇の熱証による精神症状が中心的な構成病態である。精神症状に対して,柴胡と黄芩は胸脇の熱証に起因する部分に,竜骨と牡蛎は気の変調に起因する部分に効き,感情不安定・煩驚・睡眠異常等を治す(鎮静効果)。半夏,人参,大棗,生姜は健脾和胃,桂皮は気の上衝を抑えて精神症状に作用,茯苓は心悸亢進に有効かつ尿不利・身重等の水毒を去るといった作用がある。

柴胡加竜骨牡蛎湯は安神剤であり,原典『傷寒論・太陽病中篇』において,この方を用いる標準はあくまでも胸満であり,胸満により煩驚(心煩+驚悸),小便不利になると書かれている。


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