【質問者】
櫻澤博文 合同会社パラゴン代表 医師・労働衛生コンサルタント
【19世紀の医学と20世紀の医学との違いをふまえて世界の医学経験を獲得しよう】
原因は明らかです。一言で言うと19世紀の医学と20世紀後半の医学との違いです。19世紀の生理学の大家ベルナールによる「実験医学序説」(1865年)に端を発するメカニズム決定論の影響を,明治期に医学を輸入したわが国は色濃く受けてきました。それ以前の職人芸としての医学では,親方から弟子へ伝わる知識や技術でしたが,論文を通じて実験の成果としての知識が伝わることは大きな進歩となり,19世紀末には細菌学が大きな成果を挙げました。しかし,これは実験医学の話で,人の話とは異なります。それでもベルナールは「真の科学的医学をつくるのはこの実験室である」と医学研究者を病棟や職場から実験室へと駆り立てました。
20世紀となり,自然科学が決定論から確率論へと発達するにつれて,医学もしだいに人の観察から定量的に情報を交換する方向へと発達しました。わが国が戦災から立ち直ろうとしている間に,欧米では薬効治験や観察研究など人を直接観察する方法論を発達させ,人のデータに基づいて発がん物質の同定と分類を始めました。
それらの成果と疫学理論の発達により,米国医師会雑誌は1992年に「医療行為のための新しいパラダイムが現れてきている。根拠に基づく医学とは,直感,非体系的な臨床経験,病態生理学的根拠を臨床判断の十分な根拠として重視せず,臨床研究からの科学的根拠を検証することを重視する」と宣言し,医学的根拠を人の系統的な観察研究に置き,これを研修医全員に課しはじめました。これが科学的根拠に基づく医学(evidence-based medicine:EBM)の始まりです。
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