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常位胎盤早期剝離[私の治療]

No.5140 (2022年10月29日発行) P.47

中島啓輔 (東京大学医学部附属病院女性診療科・産科)

永松 健 (東京大学医学部附属病院女性診療科・産科准教授)

登録日: 2022-10-31

最終更新日: 2022-10-25

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  • 前置・低置胎盤などの胎盤付着部位の異常がない胎盤(常位胎盤)では,胎児の娩出後に胎盤が剝離する。一方,胎盤が胎児娩出前に子宮壁から早期に剝離することを常位胎盤早期剝離と言う。発症に伴い胎児への酸素供給が低下し,母体も剝離部からの出血による出血性ショックおよび播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)をきたし,母児の双方が生命の危機となる重篤で緊急性の高い周産期疾患である。発生頻度は全分娩の0.22%程度とされている1)

    ▶診断のポイント

    多くの場合,妊娠28週以降の第3三半期の発症である。この時期に急性の下腹部痛,外出血(ないこともある),子宮収縮を伴う圧痛を訴えた場合には本疾患を疑い検査を進める。超音波断層法による胎盤後血腫像,胎児心拍数陣痛図における遅発一過性徐脈などが典型的な所見であるが,発症初期には診断が難しく注意を要する。子宮収縮が唯一の症状である場合もあり,切迫早産との鑑別が特に重要である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    外出血,子宮の痛みや収縮を訴える点などは切迫早産と類似した症状となるが,本疾患では胎児の状態が急性に悪化するため鑑別に迷う場合には,胎児心拍数陣痛図で児の状態の持続的な評価を必ず行う。基線細変動の減少・消失,遅発一過性徐脈などの出現があり胎児のwell-beingが損なわれている場合には,診断を確定できなくとも速やかな娩出が必要となる。超音波断層法では胎盤の肥厚や胎盤後血腫の存在が確認できれば,診断がより確実となるが,血腫と胎盤実質のエコー輝度の違いを検出することが難しく,胎盤が肥厚しているように見える場合もあることに留意する。

    本疾患の発症後は胎盤剝離の程度により,胎児の予後は様々であるが,急激に剝離が進行すると,神経学的予後が悪化し,胎児死亡に至るリスクが高まる。母体側では,胎盤剝離部の出血およびそこを起点とした急激な凝固機能障害(DIC)を生じることが,生命予後に関わる因子となる。

    胎児と母体のそれぞれの状態に応じて,娩出方法および治療を決定することとなる。特に,診察時点での胎児の生存の有無が対応方針に大きく関わる。

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