【エキス剤の複数投与では,特に麻黄・大黄・附子・甘草などで,構成生薬の重複に注意が必要となる】
漢方薬を複数処方する場合に,注意点はいくつかあります。
まず,保険適用の問題です。保険審査は地域によって異なります。そもそも3処方以上はオートマチックに症状詳記を必要とする地域もあります。2処方以上でも症状詳記が要求されることもあります。漢方薬の基本は単一処方ですが,複数の訴えに対応する場合は複数処方となることもありますので,ご注意下さい。複数の訴えがある場合は,最も困る訴えに適すると思われる漢方薬を,筆者は処方します。すると,その他の訴えも改善することを,たびたび経験します。1剤で複数の訴えが治ることが,漢方の魅力のひとつです。
次に,漢方薬を複数処方する場合,構成する生薬が重複していると,生薬量が過量になることがあります。しかし,そもそも煎じ薬で複数処方を合わせてつくるときは,重複する生薬があれば,多いほうの生薬量を選択します。つまり過量にはならないのです。
ただし,エキス剤を複数投与するときは単純に足し算になりますので,重複する生薬に気をつけましょう。特に麻黄,大黄,附子,甘草は注意が必要です。麻黄にはエフェドリン様作用があります(むしろ,麻黄からエフェドリンが発見されました)ので,過量投与により交感神経刺激作用(頻脈,高血圧,食欲不振,尿閉など)をきたします。大黄は瀉下作用がありますので,過量投与により下痢となります。附子は熱薬なので,過量投与により,発汗,動悸,舌のしびれ,食欲不振などが生じます。そして,甘草は長期にわたる過量投与で,偽アルドステロン症(高血圧,低カリウム血症,浮腫)を誘発することがあります。
そして最後に,構成生薬が増えると有効性が減弱することがあります。「漢方は生薬の足し算の叡智」です。例外は,構成生薬が最少の1種類(甘草)からなる甘草湯です。構成生薬が2種類のものは,芍薬甘草湯,大黄甘草湯,桔梗湯です。保険適用漢方薬で構成生薬が最多のものは,18種類からなります。ざっくりとしたイメージとして,構成生薬数が少ないものは速効性がありますが,耐性ができやすいのです。一方で,構成生薬数が多くなると,ジワジワと体質改善のように効きますので,耐性ができにくいのです。また,構成生薬数が多すぎると,効かなくなることがあります。そのため,漢方薬の併用を考えるときは,併用する漢方薬数よりも,構成生薬数が全部でいくつになるかに注意を払えばよいでしょう。構成生薬が20種類以上になるときは,食前と食後など内服時間をわけて,筆者は投与しています。
なお,女性の漢方薬の3大処方は,構成生薬が6種類からなる当帰芍薬散,10種類の加味逍遙散,そして5種類の桂枝茯苓丸です。この漢方薬3つを合わせても,重複する生薬があるので,構成生薬は14種類にしかなりません。よって,当帰芍薬散+加味逍遙散+桂枝茯苓丸を用意すれば,ほとんどの女性の疾患に対応可能な万能薬ができそうです。しかし,これら3つの漢方薬から8種類の生薬を抜いた当帰芍薬散,4種類を抜いた加味逍遙散,9種類を抜いた桂枝茯苓丸が好まれているのです。
漢方は生薬の足し算の叡智ですが,実は引き算も大切なのです。むやみに足し合わせることが最良ではないことを理解できます。
【参考】
▶ 新見正則:3秒でわかる漢方ルール. 新興医学出版社, 2014.
▶ 新見正則:実践3秒ルール 128漢方処方分析. 新興医学出版社, 2016.
▶ 新見正則:本当に明日から使える漢方薬シリーズ② フローチャート漢方薬治療. 新興医学出版社, 2011.
▶ 新見正則:本当に明日から使える漢方薬 7時間速習入門コース. 新興医学出版社, 2010.
▶ 新見正則:実践ちょいたし漢方 増補版. 日本医事新報社, 2015.
【回答者】
新見正則 新見正則医院院長