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子宮付属器炎:骨盤内炎症性疾患[私の治療]

No.5145 (2022年12月03日発行) P.48

浮田真沙世 (静岡県立総合病院産婦人科医長)

濱西潤三 (京都大学大学院医学研究科婦人科学・産科学准教授)

万代昌紀 (京都大学大学院医学研究科婦人科学・産科学教授)

登録日: 2022-12-01

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  • 骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease:PID)は,子宮内膜炎,卵管炎,卵管膿瘍,骨盤内腹膜炎などを含む,女性生殖器上部の炎症性疾患の総称である。クラミジア・淋菌などの性感染症や,大腸菌等の腸内細菌,黄色ブドウ球菌や連鎖球菌,バクテロイデスなどの嫌気性菌などによる上行感染が主で,多くが複合感染である。不妊症,異所性妊娠,慢性骨盤痛などの後遺症をきたしうるため早期診断・治療が重要である。

    ▶診断のポイント

    骨盤領域の疼痛,帯下異常,発熱,性交痛,月経開始と関係のある発症時期などの典型症状がそろうことは多くない。淋菌の感染率の低下につれて重篤な症状を呈する症例が減少傾向にあり,症状の発現や程度が不明確で軽微であることも多い。子宮頸部の可動痛,子宮の圧痛,付属器の圧痛のうち,1つ以上が該当すればPIDとして治療を開始する。子宮頸管内からクラミジアや淋菌が検出されずとも,それらの上行性感染は必ずしも否定されない。性交渉以外にも,人工授精,子宮内膜細胞診などの子宮内操作も原因となることがある。その他,38℃以上の発熱,白血球やCRPの増加も参考とするが,診断特異性は乏しい。経腟超音波検査やCT・MRIにより,膿瘍形成の有無を確認する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    確実な診断が難しいので,非典型例において「治療の機会を逃す」ことのないように治療開始を心がける。PIDを疑った時点で,病原体検索のための検体採取を行い,子宮頸管のクラミジア・淋菌の核酸増幅検査も実施する。治療は抗菌薬の投与であるが,膿瘍を形成している場合の有効性は低く,ドレナージによる排膿が必要となることも多いため,外科的介入のタイミングを逃さない。外来で治療を開始するが,治療開始後3日以内に臨床的な改善を認めない場合は入院治療とする。PIDの重症度に特別な基準はなく,自他覚症状や臨床検査所見に応じて,経口薬治療か注射薬治療かを判断する。

    抗菌スペクトラムの広い薬剤を選択し,クラミジア・淋菌は基本的にカバーする。淋菌はニューキノロン系薬剤に対して耐性を獲得してきており,PIDの治療にニューキノロン系単剤での治療は推奨できない。PIDの多くに細菌性腟症の合併があり,嫌気性菌は高い頻度で上部生殖器官から分離されるため,嫌気性菌をカバーした抗菌薬の選択を考慮する。クラミジアや淋菌の場合はパートナーの治療も勧める。

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