非弁膜症性心房細動(AF)に対する直接経口抗凝固薬(DOAC)はワルファリンと比べたときの脳卒中と大出血リスクの有意な低リスクが、ランダム化比較試験(RCT)のメタ解析から明らかになっている[Ruff CT, et al. 2014]。しかしイベントハザード比(HR)を用いた比較は、その結果を医師と患者が同じように理解しているとは限らない。そのため新たな比較方法が提唱されており、その1つが「イベント延引幅」(Delay of Events:DoE)である[Lytsy P, et al. 2012] 。イベントの「発生率」ではなく「発生までの期間」を比較する。
そこでクイーンズランド大学(オーストラリア)のSteven Deitelzweig氏らは大規模コホートデータを用いて、非弁膜症性AFに対するDOACとワルファリンの有効性・安全性を「DoE」評価で比較した[Deitelzweig S, et al. 2022]。その結果、HR評価とはかなり異なった印象を与え得る数字が示された。
解析対象となったのは、米国の官民データベースから抽出されたDOAC処方歴のあるAF患者46万6991例中、傾向スコアでワルファリン群と背景因子を揃えたアピキサバン群(10万977例)、ダビガトラン群(3万6990例)、リバーロキサバン群(12万5068例)並びに、各群と同数のワルファリン群である。
平均年齢はおよそ75歳、CHA2DS2-VAScスコア平均は4.0弱、HAS-BLEDスコアは平均でおよそ3.0だった。
これらを対象に、DOAC処方開始後1年間の各種イベントHRとDoEを算出した。
その結果、「脳卒中・塞栓症」のHRをワルファリン群に比べると、アピキサバン群では0.64(95%信頼区間[CI]:0.58-0.70)の有意低値だった。通常この結果は「36%のリスク低下」と表される。次に同じ結果を「DoE」で評価すると101日(95%CI:78-124日)だった。言葉に直せば「101日間遅延させた」となろう。
同様にダビガトラン群でもHRは0.82(0.71-0.95)、DoEなら45日(3-87日)、リバーロキサバン群はHR:0.79(0.73-0.85)、DoE:63日(42-84日)という評価になった。
「大出血による入院」も同様に検討すると、アピキサバン群は116日の有意遅延(103-130日)、ダビガトラン群では92日(68-116日)。一方リバーキサバン群ではワルファリン群に比べ18日(6-31日)の「前倒し」になっていた。
通常用いられるリスク比較に「DoE」を加えれば治療効果についてのより全体的評価が、医師だけでなく患者にも可能になると、Deitelzweig氏は主張している。
本研究はPfizer IncとBristol-Myers Squibbからの資金提供を受けている。また原著者10名中5名は上記2社の社員である。