リンパ管の障害により,腸管のリンパ流が停滞して腸管から蛋白が漏出する疾患で,蛋白漏出性胃腸症の主な原因疾患のひとつである。浮腫,下痢,腹痛,乳び腹水・胸水などを生じ,低アルブミン血症や低ガンマグロブリン血症を呈する。また,T細胞を主体としたリンパ球が腸管へ漏出することで免疫能の低下をきたし,易感染性や悪性腫瘍発生のリスクとなる。
α1アンチトリプシンクリアランス検査や蛋白漏出シンチグラフィーで,蛋白漏出性胃腸症を確認する。また,消化管内視鏡検査でKerckring襞の肥厚や小腸の白色絨毛,散布性白点,白色小隆起,粘膜下腫瘍様隆起の所見を評価する。ダブルバルーン内視鏡は,所見のある小腸粘膜からの生検によりリンパ管の拡張を証明することができるが,カプセル内視鏡も全小腸を評価できる点で有用である。
リンパ管の先天的形態異常(リンパ管形成不全など)による原発性腸リンパ管拡張症については,完治させる治療法がないため,対症療法が基本である。腸管リンパ流を障害する様々な器質的疾患による続発性腸リンパ管拡張症に対しては,原疾患の治療を行う。続発性の要因としては,悪性リンパ腫等の後腹膜腫瘍,後腹膜線維症,後腹膜に発生した結核・サルコイドーシス,クローン病,強皮症,セリアック病,全身性エリテマトーデス,多発性骨髄腫,肝硬変,慢性うっ血性心不全,収縮性心膜炎,Fontan手術後などがある。
原発性腸リンパ管拡張症の治療としては,まず食事栄養療法を行う。炭素数が13以上の長鎖脂肪酸は,分解後にカイロミクロンとなりリンパ管から吸収されるため,リンパ系圧の上昇をきたす。そのため,長鎖脂肪酸が主成分の食用油は控えるのが好ましい。一方で,炭素数が8~12の中鎖脂肪酸(medium-chain triglyceride:MCT)は分解後,胆汁酸によるミセル化なしで小腸吸収細胞に取り込まれ,腸リンパ管を経由せずに毛細血管を介して吸収される。MCTはリンパ系圧を上昇させないため,MCTパウダー・MCTオイルをいろいろな食品に添加する,あるいは調理に使用することが勧められる1)。栄養障害がみられる場合は,半消化態栄養あるいは成分栄養を投与する。
食事栄養療法で改善困難な場合は,局所の浮腫改善のために副腎皮質ステロイドの投与を行う。Ohmiyaらは原発性腸リンパ管拡張症を,①小腸粘膜に白色絨毛や散布性白点を有する白色絨毛型と,②異常がないか,軽度絨毛腫大やKerckring襞の肥厚にとどまる非白色絨毛型,に亜分類し,前者はステロイドの反応性に乏しいが,後者は有用であることが多いと報告している2)。
ステロイド抵抗例に対しては,消化液分泌量抑制のためソマトスタチンアナログ製剤や,トラネキサム酸を用いた抗プラスミン療法の有用性が症例報告されているが,エビデンスには乏しい。症状が強く,病変が限局している症例では外科的な部分切除も検討されるが,小腸にびまん性に病変が存在することが多く,適応となることは少ない。
原発性腸リンパ管拡張症と診断されていても,5%程度に悪性リンパ腫に形質転換した報告があり3),経過観察には注意を要する。
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