アジア諸国では直接経口抗凝固薬(DOAC)の処方にあたり、添付文書指示に基づかない減量を行うことが多い。Shen NNらによる観察研究メタ解析ではその割合は31%に上る。従来、このような不適切な減量は転帰を増悪させるとするデータが多かったが、わが国の大規模心房細動(AF)レジストリである”ANAFIE”からは、不適切減量よりも添付文書準拠の適切減量に伴う転帰増悪の可能性が示唆された。Circulation Journal誌7月21日掲載の赤尾昌治氏(京都医療センター)らによる論文を紹介したい。
今回解析対象とされたのは、わが国における75歳以上のDOAC服用下にある非弁膜症性AF 1万8497例である。これらをDOAC服用量別に以下の5群に分け、「死亡・脳卒中/塞栓症・大出血」などのリスクを比較した。
5群の詳細は以下の通り。
その結果、まず5群の分布を比較すると、最多は「承認低用量」(51.6%:9548例)、次いで「承認標準用量」(21.4%:3950例)、そして「不適切減量」(19.6%:3630例)、「承認外低用量」(4.3%:795例)、「不適切非減量」(3.1%:574例)が続いた。
73.0%の患者で、添付文書に従った用量が用いられていた形である。
次に2年間の「死亡・脳卒中/塞栓症・大出血」発生率を「承認標準用量」群(3.01/100人年)と比べると、有意高値となっていたのは「承認低用量」群(5.70/100人年)と「承認外低用量」群(7.78/100人年)の2群だけだった。
一方、添付文書上減量の必要がないのに承認低用量を服用していた「不適切減量」群(3.81/100人年)では、「承認標準用量」群と上記イベント発生率に有意差を認めなかった。
ただし各群間では背景因子に差がある。そのため諸因子を補正後、あらためてリスクを比較した。しかしやはり「承認標準用量」群に比べ、「死亡・脳卒中/塞栓症・大出血」リスクが有意上昇していたのは「承認低用量」群(ハザード比[HR]:1.35)と「承認外低用量」群(同:1.64)のみだった。
他方「不適切減量」群におけるHRは1.16で、「承認標準用量」群と有意差はなかった。
そこで詳細に「承認低用量」群と「不適切減量」群を比較すると、有意差はないものの「不適切減量」群のほうが「承認低用量」群に比べ、「脳卒中/塞栓症」「大出血」「頭蓋内出血」のいずれも少ない傾向が認められた。
なお、日本における別AFコホート(SAKURA AF、1676例、平均71.7歳)における傾向スコアマッチ比較でも、「承認標準用量」群に比べた「死亡・脳卒中/塞栓症・大出血」HRは「承認低用量」群で1.48(NS)となり、「不適切減量」群の1.06(NS)よりも高い傾向が認められた。
今回報告された本研究は、第一三共株式会社から資金提供を受けた。