卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome:OHSS)は,ゴナドトロピンの過量投与により両側卵巣が腫大し,血管透過性が亢進するために血漿成分が血管外に移動して,循環血漿量の減少・胸水・腹水をきたす疾患である。重症化すると生命に関わることから,重症化を予防することが肝要である。
排卵後数日を経て症状が発現し,1〜2週の経過で軽快する。着床した場合は症状が増悪・遷延する。
ゴナドトロピン大量投与,卵巣(卵胞)の腫大,胸水・腹水がみられることから,本症の診断は容易である。ほとんどの患者がリスク因子〔多囊胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome:PCOS),OHSSの既往〕を有する。
自覚症状,胸腹水量,卵巣径,血液濃縮の程度に基づいて,重症度を判定し管理法を決める1)。血中エストラジオール値(>3500pg/mL),胞状卵胞数(≧24個)などを参考に重症度を予測することもある。
最も有効な治療は,発症を予測して,発症を回避することである。リスクを有する症例では,ゴナドトロピン投与にあたり製剤選択・投与方法と量に注意を払い,卵胞発育を適切にモニタリングして卵巣刺激を調節する。しかし,難治性PCOSでは,卵胞発育により多くのゴナドトロピンを要する傾向にあり,OHSSを回避することが困難な場合も少なくない。そのような症例では,十分な説明の上,同意を得て,重症化予防に努めつつ調節卵巣刺激を実施する。
OHSS発症後は,重症度を評価し1),今後増悪するか否かを予測して管理方針を決める。
循環血漿量の減少は,多臓器不全や血栓症から致死的な結果をもたらすことがある。重症例では,①血管透過性亢進の抑制,②血管内脱水の治療,③血栓予防,を念頭に置いて治療を行う。治療効果は,血液検査のほか,尿量や体重,腹囲,超音波検査等で評価する。
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