胎生8~12週時に一過性に臍帯へと脱出した腸管が再度還納される。その過程で腸管は上腸間膜動脈(SMA)を中心に270°回転する。この正常な腸回転のプロセスに異常をきたした状態を腸回転異常症と言う。この状態では,腸管の捻転や閉塞をきたすことが多く,特に胎生期の中腸に相当する部位がSMAを中心に軸捻転を起こす「中腸軸捻転」が有名である。
腸回転異常症は,単独で症状を呈することは稀であり,多くは中腸軸捻転を合併した際に症状が現れる。中腸軸捻転は出生時から成人期まで発症する可能性があり,特に新生児期には50~70%,1歳までの乳児期に90%の割合でみられる。成人の発症は比較的稀である。症状としては,新生児および乳児にみられる胆汁性嘔吐が特徴的である。初期には腹部膨満をきたさないことが多く,病態が進行するにつれて腹部膨満や下血など消化管出血,さらには敗血症性ショックを引き起こすこともある。学童期や成人期には,慢性的な腹痛や嘔吐,吸収障害など非典型的症状を呈することが多い。
急性期に中腸軸捻転が疑われる場合,最初に行うべき検査は腹部超音波検査である。SMAと上腸間膜静脈(SMV)の位置の左右逆転や,SMAの周りにSMVおよび腸間膜が巻きついているような「whirlpool sign」は,中腸軸捻転を示す重要な所見である。腹部超音波検査での診断が困難な場合は,続いて上部消化管造影を行う。上部消化管造影では,腸回転異常症の場合,遠位十二指腸が通常よりも腹側に位置しており,また,十二指腸から続く空腸起始部が脊椎の右側に位置している所見がみられる。さらに,空腸起始部の螺旋状の走行を示す「corkscrew sign」は中腸軸捻転の典型的な所見である。ほかに注腸造影や造影CTも診断に有用な場合がある。腹部単純X線撮影は腸閉塞の診断に有用だが,腸回転異常症自体の診断にはそれほど有用ではない。
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