(概要) 来年4月開始予定の新専門医制度に対し、社会保障審議会医療部会で「地域医療への配慮が不十分」との批判が噴出。制度開始の延期の是非を含めて検討することが決まった。
「新専門医制度」は、専門医の認定・評価を各学会ではなく第三者機関の「日本専門医機構」(機構)が行うことで、専門医の質の担保を目指すもの。「総合診療専門医」を含む19の基本領域の養成研修が来年4月に始まる予定となっている(図)。
しかし、機構に社員として参加する日本医師会の横倉義武会長が17日、「高度急性期・急性期に医師配置が偏り、今後求められる医療提供体制との齟齬が生じかねない」などとして、制度開始の延期も視野に入れた検討を要請。事態は急展開を迎えた。
「第二次医療崩壊」を憂える声も
翌18日に開かれた社会保障審議会医療部会は、機構の池田康夫理事長らからヒアリングを実施。
専門医研修は、各地域の基幹施設が中心となり、連携する複数施設が「施設群」を設定して行う。機構は、施設群の設定に当たっては地域協議会を設置し、行政・大学・病院会・医師会など関係者間で調整するよう呼び掛けている。研修を受ける医師(専攻医)の募集数については、各都道府県の症例数・指導医数に比例することが望ましいとし、都市部では地方からの流入を抑えるため「最大でも現状維持」の定員数とするよう求めている。
池田氏らはこうした「地域医療への配慮点」を強調したが、部会の荒井正吾委員(奈良県知事)は「基幹病院への若手医師の引揚げが既に起きている」と指摘。中川俊男委員(日医)は「地域包括ケアの構築に支障が出るのは明らか。制度撤廃を求める声さえある」と、制度の延期を強く主張した。
邉見公雄委員(全国自治体病院協議会)は延期に賛同した上で、「研修の基幹施設の基準を満たす病院が1施設しかない県もある。医師偏在が進み、『第二次医療崩壊』の先駆けになる」と訴えた。
池田氏「今の段階で混乱避けたい」
地域協議会を巡っても議論は錯綜した。邉見委員の「協議会はほとんど機能していない」との指摘に池田氏が「北海道ではうまく調整が進んでいる」と答えると、荒井委員が「(知事会は)協議会の存在自体が初耳。来年4月開始は拙速だ」と返すなど、機構と自治体の認識に隔たりもみられた。
これを受け永井良三部会長は、制度の開始時期を含めて検討する専門委員会の設置を提案。池田氏は「研修プログラムが出揃ってきた今の段階で混乱は避けたい」と理解を求めたが、永井部会長は「関係者間の意見調整が必要だ」とし、部会も了承した。
【記者の眼】
新専門医制度は各団体のプロフェッショナル・オートノミーに基づき運営されるため、部会、専門委員会のいずれにも議決権はない。専攻医募集が6月に迫る中、関係者がどう折り合うのか注目される。(F)