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性器ヘルペス初感染患者への髄膜炎・脳炎検査の必要性

No.4750 (2015年05月09日発行) P.54

岩破一博 (京都府立医科大学大学院女性生涯医科学 准教授)

登録日: 2015-05-09

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

「産婦人科診療ガイドライン」に性器ヘルペス感染は「強い頭痛・項部硬直などの髄膜刺激症状を伴うことがあり,排尿困難や便秘などの末梢神経麻痺を伴うこともある」と記載されていますが,後障害や死亡の可能性については言及されていません。一方,重篤な髄膜炎・脳炎に至った症例報告があるようです。性器ヘルペス初感染患者を診察する際の髄膜炎・脳炎に関する検査の必要性や患者さんへの説明,専門医紹介について,京都府立医科大学・岩破一博先生のご教示をお願いします。
【質問者】
岡垣竜吾:埼玉医科大学病院産婦人科教授

【A】

Ⅰ型ヘルペスウイルスはヘルペス脳炎,Ⅱ型ヘルペスウイルスは髄膜炎を起こすことが多いとされています。新生児期のヘルペス感染症は垂直感染がほとんどで,新生児ヘルペスの75~80%がⅡ型ヘルペスウイルスによるものです(文献1)。
Ⅱ型ヘルペスウイルスによる髄膜炎は,性器ヘルペスの初回感染時に症状を示すことが多く,男性の13%,女性の36%に症状がみられます(文献2)。乳幼児例では多くが初感染例で,脳実質の破壊を伴い,死亡率が高く,また治癒しても後遺症を残すことが多く,きわめて重篤な疾患です。わが国での性器ヘルペスに伴う髄膜炎の発症頻度に関する統計学的な報告例はみられませんが,米国での報告より低頻度と思われます。ヘルペスウイルス感染に伴う髄膜炎はⅡ型ヘルペスウイルスで再発傾向が強く,再発を繰り返す髄膜炎はMollaret髄膜炎と呼ばれています(文献3)。
PCR(polymerase chain reaction)法を用いて髄液中のヘルペスウイルスDNAを増幅,検出することにより,ヘルペス脳炎が迅速に診断可能となりました。感度も95%と非常に高く,以前から行われていた脳生検に匹敵するとされています(文献4)。また,CTやMRIなどの画像検査では,早期から側頭葉,前頭葉下面に信号異常を認めることが知られており,診断的価値があります。
以前は,髄液からのウイルス分離や抗体価上昇で診断しましたが,結果が出るまで時間を要するため,臨床症状からヘルペス脳炎が疑われるときには,速やかにアシクロビルによる治療を開始することが多いようです(文献5)。
患者さんの症状をみて頭痛,発熱,髄膜刺激徴候から髄膜炎の可能性を考えたり,脳炎の疑いがあれば,診断のための検査を行う必要性があります。しかし,症状がなければ,「性感染症 診断・治療ガイドライン 2011」の「性器ヘルペス」(文献6) では,特に髄膜炎・脳炎の検査の実施は推奨されていません。また,性器ヘルペス初感染の入院を要する成人患者において,髄膜炎での後遺症を残したとするような報告はあまりないようです。神経内科などの専門医への紹介も主治医の判断によると思います。

【文献】


1) Kohl S:Clin Perinatol. 1997;24(1):129-50.
2) Corey L, et al:Ann Intern Med. 1983;98(6): 958-72.
3) Mollaret P:Rev Neurol. 1944;76:57-76.
4) Aurelius E, et al:J Med Virol. 1993;39(3):179-86.
5) 松本 浩, 他:化療の領域. 2001;17(7):1231-7.
6) 日性感染症会誌. 2011;22(1):Suppl 65-9.

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