株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

非侵襲的出生前遺伝学的検査の実態・問題点と今後の展望

No.4763 (2015年08月08日発行) P.59

左合治彦 (国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター長)

登録日: 2015-08-08

最終更新日: 2016-10-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

2013年4月に母体血を用いた新しい出生前検査である,非侵襲的出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal genetic testing:NIPT)が臨床研究という形で日本に導入されました。臨床研究により明らかにされた検査の実態や問題点,また今後の展望について,国立成育医療研究センター・左合治彦先生のご教示をお願いします。
【質問者】
遠藤誠之:大阪大学医学部産婦人科講師

【A】

NIPTとは,母体血漿中のcell-free DNA(cfDNA)には胎児由来成分が存在することから,次世代シークエンサーを用いてcfDNAを網羅的に解析して行う胎児の遺伝学的検査です。母体血を用いて胎児が21トリソミー,18トリソミー,13トリソミーの3つの染色体疾患であるかどうか判定する検査法で,検査感度と特異度は高いものの,あくまで非確定的検査です。
2013年3月に日本産科婦人科学会より「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」が出され,「その実施は,まず臨床研究として,認定・登録された施設において,慎重に開始されるべき」とされました。私たちはNIPTコンソーシアムとして2013年4月よりNIPTの多施設共同臨床研究を開始しました。臨床研究の目的は検査を普及することではなく,検査を行うのであれば適切な遺伝カウンセリングを提供できる体制が不可欠であり,その基盤を整備するための基礎データを収集することです。
臨床研究に参加した施設の数は2013年4月には15施設でしたが,2014年3月には37施設に増加しました。1年間で7740件の検査が行われ,検査の適応は高年妊娠95.4%が最も高く,ついで染色体異常児出産の既往2.9%,超音波マーカーによる染色体疾患のリスク上昇の指摘1.4%でした。受検者の平均年齢は38.3歳で,受検時の妊娠週数の平均は13.3週でした。
受検者7740人中,陽性141人(1.8%),陰性7581人(97.9%),判定保留18人(0.2%)でした。陽性例のうち13例は子宮内胎児死亡となり,侵襲的確定検査を行った陽性例126例中,偽陽性は21トリソミーで4.1%(3/73),18トリソミーで19.0%(8/42),13トリソミーで18.2%(2/11)でした。遺伝カウンセリングの時間と満足度には相関があり,20分以上で満足度が高く,説明内容の理解度は,倫理的な側面,ダウン症候群の特徴や成長,染色体数的異常症についてやや劣っていました。
NIPTは今までの出生前診断のあり方を根底からくつがえす可能性のある検査です。ただし,前述したようにあくまで非確定的検査です。しかし,陽性時の羊水検査の必要性についての理解度はきわめて高いにもかかわらず,陽性142例のうち3例(2.1%)は諸種の事情により羊水検査などによる確定診断を拒否していました。
出生前診断に関しては様々な立場と意見がありますが,NIPT検査技術の進歩はとどまるところを知りません。NIPTは染色体検査のみならず今後は種々の遺伝子検査に応用される可能性があります。NIPTに対する需要は高く,適切に運用するための遺伝カウンセリング体制の整備が危急の課題です。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top